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第三章 超ハードモードの人生に終止符を

御方のために(神父視点)

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 アイリーン阿婆擦れが、カフェでマリエールにしてやられた日の深夜ーー。

 とある落ちぶれた教会の一室で、私は一人待っていた。

 今から会う御方は、私のちっぽけな命よりも大切で尊い方だ。久し振りの謁見に高揚する気持ちが抑え切れない。

 それでも何とか、はやる気持ちを抑えながら立って待っていると、御方が侍女を一人連れ現れた。

 貴族令嬢としてはかなり小柄な出で立ちの御方だが、醸し出す雰囲気は少女ではない。十代前半か、いって半ばぐらいにしか見えなくても。

 こんな場所に何故貴族令嬢が……?

 それも、平凡なひょろりとした神父と密会を?

 他者から見たら逢い引きのように映るかもしれない光景だ。だが、直ぐに気付くだろう。御方と私の間にはあの独特な甘い雰囲気は全くないことに。

 挨拶を交わした後、私は今回の謁見の要件を述べた。

「……アレをあのまま放置していてよいのでしょうか? 何も知らないとはいえ、心配でなりません。
 あの忌々しいマリエールはかなりの切れ者です。このままでは、我々の存在を敵に知られる可能性が……。
 大事になる前に、アレを連れ戻しましょう」

 優雅にソファーに座る御方に、私は必死に進言する。御方の許可がおり次第、直ぐに私兵を動かせるように手配していた。

 だが、焦る私とは違い、御方は特に困った様子を見せない。いつもと同じように落ち着き払っている。まるで、全てを予想していたみたいに。他の者の目には不気味に映るだろうその姿も、私にとっては神秘的に映っていた。

「あの娘に、元々何の期待もしていないわ。
 だって、馬鹿だったから。
 でも、その馬鹿さ加減が気に入っているのよ。とても純粋でしょ。自分の欲望に。欲望を叶えるためには何だって利用する。親でも友だちでも。その貪欲さに。本当に純粋よね。
 そう思わない? ナイド」

 コロコロと御方は笑う。

 幼い外見と醸し出す雰囲気、そして声が、かなり差があるように感じる。

 当然だ。

 御方が使うのは年端もない少女の肉体だからな。ましてや、御方の服装のせいもあるだろう。少女が一般に着るようなドレスを御方は好まない。

 御方は特に黒を好む。

 以前は不吉だと思っていた色だが、今は最も好む色となった。

 いつも、御方はベールで顔を隠している。口元さえ見えない。顔全体を覆うベールだ。

 長袖では暑い季節だというのに、今も顎下までキッチリと覆うドレスを着ていた。なのに、汗一つかいてはいない。ましてや、同色の手袋まで身に付けている。全く肌を露出していなかった。

 今日も全身真っ黒だ。

 喪服のような出で立ちのせいで、まだ少女なのに、何処かの高位貴族の未亡人のような雰囲気を漂わしている。

 御方はそのことに気付いているだろうか。ふと……そんな考えが頭を過ぎった。

「確かに、アレは貴女様の仰る通りとても純粋ですが……。だとしたら尚更、早急に連れ戻すべきです」

 私は引かない。

 正直に言えば、引けなかった。

 長年計画し、実験を繰り返し、やっと実行するまで漕ぎ着けたのに、あの馬鹿のせいで台無しにされたらたまったものじゃない。

 目の前におられるこの御方のためにも、何としても成功させなければならない。

「ナイド……貴方の忠誠、とても嬉しいわ。
 でもねーー貴方はいつから私に意見をする程偉くなったのかしら。
 あまりにも身の程知らずな事を言うのなら、わよ」

 御方の口調は全く変わらない。声音も。

 だけど、私はそれが本気だと気付いた。私は両膝を床に付き、頭を垂れて出過ぎた真似をした事を謝罪をする。

「……まぁでも、ナイドの言う通り、近いうちに呼び戻さないといけないわね。
 もうこの体も持ちそうにないから」

 御方は変わらず、コロコロと笑っていた。

 ならば私は、御方のために新しい体を至急用意致しましょう。お任せ下さい。私は御方に遣えるために存在している、只の神父なのだから。


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