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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
ほんと、何にも学習しない人よね
しおりを挟む「マリエール様。こんにちは」
相変わらず馴れ馴れしいわね。私は貴女の友だちでもなんでもないのに。
「御機嫌よう。アイリーンさん。それで、私に何か御用かしら?」
にっこりと微笑みながら応じる。
私がさん呼びした瞬間、阿婆擦れの頬が引くついた。勿論、見逃さないわよ。引くつきながらも口角が上がってるので、辛うじて微笑んでるように見えるわね。
互いに笑顔で応対しているのに、周囲の空気がバチバチと鳴ってるのは何でかな? 皆、カップとソーサーを持って違う席に移動してるわね。でも逃げ出さないのは、野次馬根性かしら。
「マリエール様。これをどうぞ。カップケーキです」
そう言って、阿婆擦れは籠からカップケーキを取り出した。
カフェで持ち込みって。それも、今チョコレートケーキ食べてる私に? そもそも、これ毒が入ってるんじゃない?
こっそりと【鑑定】スキルで見てみた。
うっわ~~。毒入りじゃないけど、食中毒注意って。ほぼ廃棄食材で作られてるわけ。どうりで、私に手渡した物だけ綺麗にラッピングされてるわね。他のカップケーキは大丈夫みたいだから。
「いりませんわ」
きっぱりと拒絶した。
毒入りなら、証拠として受け取るけど、古くなった物に関しては如何様にも言い逃れ出来るからね。暖かいし。
「酷いです。折角、マリエール様に食べてもらおうと思って作ってきたのに」
傷付いたって表情してるけど、そもそも何で私がそんな物受け取らなきゃいけないのよ。
「そうですか。でも、いりませんわ。そもそも、貴女と私は友だちでも知り合いでもありませんわ」
「酷い!! 私とマリエール様は友だちではありませんか。少し誤解がありましたけど」
友だち? いやいや、私と貴女は敵でしょ。気持ち悪いこと言わないでよ。更に、チョコレートケーキが不味くなるじゃない。
「繰り返しますが、私と貴女は友だちではありませんわ。これから先も、友だちになることは絶対ありませんわ」
これでもかって、拒絶してやった。阿婆擦れに対して、中途半端な言葉と拒絶は自分のためにはならないからね。
私の台詞に信者がいきり立つ。阿婆擦れの両横から私を睨み付けている。親の仇みたいな目でね。
「…………私はずっと……友だちだって思ってたのに…………」
フラリとよろけた阿婆擦れ。信者の一人が支える。わざとらしい。
「どこをどうしたら、そう思えるのでしょう? 不思議ですわ。それと、さっきから口にしてらっしゃる誤解って何なのですか?」
さぁ、どう答える。
「それは……私とマリエール様が仲違いをしていたことですわ」
「仲違い? そもそも、友人でも知り合いでもないのに?」
「それは、過去世が友人だったからです」
今すぐぶっ飛ばしたいわ。怒りで目の前が真っ赤になった。だけど、何とか思い留まる。
その場の言い逃れとしても許せない!! 殿下と私が呪いを受ける原因の一つが阿婆擦れ、貴女のせいよね。私たちが受けてきた長年の苦渋、この場で何十倍にして返したいわ。
でも、今は駄目。おくびにも出してはいけない。落ち着くのよ、マリエール。平常心よ。平常心。こういう時こそ、笑みを浮かべないと。
「あらあら、おかしなことを。過去世ですか。稀に、過去世を記憶している方がいると聞いた事がありますが、アイリーンさん、貴女がそうだったのですね。凄いことですわ。だけど私は、あいにく覚えていませんの」
「私が覚えていますわ。間違いなく、私とマリエール様は親友でしたわ」
「そうなんですか。審査されたのですか? 大変だったでしょう」
阿婆擦れが審査された話は全く聞いてない。
もしこれから先、査定されたとしてもまず通らないわね。
過去世を覚えている方は皆、何かしらの特殊なスキルを持っているから。スキルを持っていなくても、知識を持っている。阿婆擦れにはそれがない。あったら、F組に落ちたりしないわよ。いくら素行が悪くても。
まぁ確かに【魅了】のスキルはあるわ。でも、それは今は珍しいだけで対抗策は十分にとれる。強力過ぎたら、危険分子扱いされて処刑される可能性があったけど、そこまでのものじゃなかったからね。
それに聖魔法も、過去世でさぼってた分、今ではそれ程のものじゃないわ。だって、ちょっとした怪我は治せても、欠損部分を再生させることも蘇生も出来ないでしょ。
だから、過去世を持つ人間として、国に保護されることはない。つまり、証明されてないってことよ。
「審査って……」
「あら? 過去世を口になさっているから、審査されてると思っていましたわ。
過去世を持つ人間だと証明されれば、国に保護されることは貴女だってご存知でしょう。学園でも習いましたでしょ。その打診が、貴女の元に来ましたか? 認定者が来ましたか? 保護を受けてらっしゃるのですか?
もし受けておられるのなら、何故フォード伯爵家は貴女を養女になさらなかったのでしょう。
アイリーンさん。貴女が仰ってることは一方的ですわ。私の身に覚えのない話をされて、関係を押し付けられても困りますわ。迷惑なだけです。私もカイン殿下も。
なので、そのカップケーキをお持ち帰り下さいませ」
顔を真っ赤にしてわなわなと震えだす阿婆擦れ。
周囲からクスクスと嗤う声が聞こえる。ニンマリと嗤いそうになったけど、ここは口角筋に力を入れたわ。
知らなかったの? ほんと、何も学習しない人よね。いつまで、自分を主人公だと思ってるのよ。
そんなことを思っていたら、待っていた人の姿が見えた。
もの凄くタイミングいいわね。もしかして、私と阿婆擦れのやり取りを見てたんじゃない。
「マリエール。待たせたね」
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