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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
まるでお祭りのようね
しおりを挟む雲一ない晴天だった。
王都の広場に、いつも以上に人が集まっていた。まだまだ集まって来るみたいだ。だからかな、屋台も多く出店している。
……まるでお祭りのようね。
神に感謝をし、讃えるような崇高なものじゃないけどね。今から行われるのは正反対なものだし。
罪人が刑罰を受ける様は、一種の娯楽になっていた。そこは昔から変わらない。この国特有なものじゃなく、一般的にどの国でも似たりよったりな事をしている。
悪趣味だと思うけどね。でも、一種の見せしめ的なものなら大成功と言えるわね。だから、無くならないんでしょうね。
「…………見に行かないって言ってたよな」
殿下が私にだけ聞こえるように、耳元で囁く。傍から見たら、まるで恋人同士のような親密さだ。
「気が変わったのよ」
伸びてくる手を叩き落としながら答える。付き合ってくれることには感謝だけど、これは別だから。
今の私は公爵令嬢じゃない。ハンターだ。勿論殿下も。だから、話し方はとても砕けている。いつもの話し方だったら、とても目立つからね。貴族令嬢ってバレバレじゃない。
それだったら、認識阻害の魔法を自分に掛けている意味ないでしょ。一応、髪と目の色を変えてるから、まず私の正体は気付かれないわ。顔は特に弄ってはないけどね。ほら、私って平凡だから。普通に埋没しちゃう。普通にね。反対に殿下は顔も弄ってるけどね。ちょっとムカつくわ。
まぁ、それは一旦横に置いといて、見に来るのにこれといった理由はなかった。
ただ……気になった。それが理由だった。理由になってないけどね。私を貶めようとしていた人間の最後の姿だし、見て損はないでしょ。気持ちよくはなくても。
時間が近付くにつれ、段々民衆が興奮してくる。少しでも近くで見ようと中央に移動する。
私と殿下は少し離れた場所から、その様子を見ていた。さすがに、あの人混みの中には入れないわ。ここからでも見えるからね。
「義父上もいるな」
ポツリと殿下が呟く。
「それ、義父様の前で言わないでよ。後が厄介なんたから」
一度、殿下が義父様の事をそう呼んだことがあった。殿下は何も考えずに呼んだみたいだけどね。その後が大変だった。
義父様が苦虫を潰した顔をしたまま落ち込んでね。執務室に籠もったんだよ。それが暫く続いたんだよね。
「愛されてるよな」
「まぁね」
私もそう思う。
「ほら、そろそろ出て来るぞ」
騎士と兵士が広場に出て来た。配置につく。途端に、熱気に包まれる広場。
そして、本日の主役の登場だ。
あれから着替えてないんだろう。薄汚れた仕事着のまま、兵士に両脇を抱えられて舞台の中央に跪かされた。
すると、一人の平民が叫んだ。
「やっと幸せになったマリエール様に、なんてことをするんだ!! この悪魔が!!!!」と。
その叫びを皮切りに、次々とアイに対する罵詈雑言が続いた。民衆の罵詈雑言を一身で受け続ける。
意外だった。四年以上経ってるのに、まだあの映像のことを覚えている人が多いようだ。まぁ、内容が内容だったからね。記憶には残るかな。
アイの表情はここからは全く見えない。俯いてるから特にね。
罵詈雑言の中、腕と肩を抑えられ、淡々と刑が執行された。
鞭の音も回数を数える兵士の声も一切聞こえてこない。
アイにとったら、私を擁護する声が上がること事態信じられないかもしれないわね。だって彼女の中で、私という存在は悪魔でなければならなかったんだから。
そうでなければ、自分がしたことが只の悪になるでしょ。復讐ではなく、独りよがりの逆恨みで終わってしまう。アイにとったら、それが一番の罰かもしれないわね。
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