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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
無視するのが思いやりだよね
しおりを挟む話が終わったので、部屋に戻ろうとした私を義父様は呼び止める。どうやら、まだ話があるみたい。
いったい何? 凄く言い難そうにしてるけど。嫌な予感しかしないわね。
少し警戒する私に告げた内容は、とても意外で、とても無神経で、とても理不尽でとても不愉快な内容だった。一瞬、頭が白紙になったわ。
「何故、私がわざわざ犯罪者に会わねばならないのです? それもこちらから」
私は義父様に反対に訊き返した。その声は思った以上に冷たく低かった。
意味が分からない。マジ不愉快だわ。寝言は寝て言えっていうの。常識でも分かるよね。何で、自分を害しようとした人間に会いたいと思うの? それも逆恨みでだよ。自分がよく知っている方なら兎も角。会話もしたことがない。ただ……顔を知っているだけの犯罪者に話すことなど、微塵もないわ。時間も勿体ないわ。
どうせ、刑も決まり怖いものがないからって、自分の家族の不幸を私のせいにして罵り、責めるに決まってるわ。未来を予知する能力がなくても、この予知だけは外さない自信があるわ。
「……別に会えとは言っていない。強制もしない。ただ、マリエールに謝罪をしたいと言っていたのを伝えただけだ」
はぁ~~。謝罪したいですって。そんな訳ないでしょ。もし、まぁ絶対ないけど、そう考えていたとしてもよ、犯罪者の戯言をわざわざ伝える必要が何処にあるの? ここは無視するのが思いやりよね。私ならそうするわ。
出掛かった言葉を必死で飲み込む。代わりに、
「謝罪? そのようなもの不必要ですわ。彼女は犯罪者。私は被害者ですわ。それとも、何も被害を受けていないから、被害者ではないと仰りたいのですか。知り合いだから融通しろと……義父様の願いでも、会うつもりは一切ありませんわ」
きっぱりと撥ね退けた。
「やっぱり無理か……」
小声で溜め息混じりに呟く声が聞こえた。
無理に決まってるでしょ。まだ言うか。
「…………義父様は私が傷付かない人間だと思っているのですね。私はまだ十四歳の子供ですよ。なのに、勝手に強いと判断して、知り合いの女性の心の負荷を軽くしようと考えている。違いますか?
私の心を完全に無視して」
はっきりと言ってやった。これが実の屑親なら、手が物が飛んできてたわね。
義父様が私を蔑ろにしていないことはよく分かってる。無償の愛情を与えてくれてることも分かってる。義父様はとても優しい人だって事も知っている。恩義があるのも事実。感謝もしてる。
だけど、嫌なものは嫌なの。
「そんなつもりは毛頭ない!! マリエールは俺の大事な娘だ!! 俺はマリエールを傷付けたのか……本当にすまない」
ダン!! と机を叩き勢いよく立ち上がると、義父様は頭を下げた。額を机に擦り付けながら。
義父様って、ある意味真っ直ぐなんだよね……ほんと。それに変な矜持も持っていないから、こんな風に躊躇わずに頭を下げれるんだよね。そんな風にされたら、怒れないじゃない。ズルいな……。
「怒ってませんから。頭を上げて下さいませ」
慌てて頭を上げるように言う私のすぐ横で、冷ややかな声がした。クライシスだ。
「…………本当にマリエールお嬢様はお優しい。それに比べ、旦那様は……。
だから、言ったではありませんか。そんな事を口にするのは愚の骨頂だと。黙っているのが、思いやりなのだと。私はそう進言しましたよね」
完全にやり込められているわね。真っ直ぐな義父様に一筋縄でいかない執事。本当、良いコンビだわ。
二人の掛け合いを見てると、つい口元に笑みが浮かぶんだよね。
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