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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
ストーン親子の行き着く先は……
しおりを挟むストーン親子が王都から姿を消した。
調度品などはそのままにしてね。溜め込んだ金塊は綺麗に執務室の机に並べられてたそうよ。
多額の賠償金や負債は、屋敷と調度品、金塊を売ったお金で十分賄えるでしょうね。残ったのは幾ばくかの現金だけか。それとも、まだどこかに隠し財産があったのか。それは分からないけど、この瞬間、ストーン商会が倒産したのは間違いなかった。
結果として、彼らは足掻かなかった。
まぁ足掻けば足掻くだけ、泥濘みにはまり込んで、見動き取れなくなって沈むだけだろうけど。
父親の方はその事を分かっていたみたいね。さすが、小さな商会を大商会まで大きくしただけはあるわ。引き際が良過ぎるもの。普通そこまで潔くなれないわ。
それにしても……今回の件でつくづく思い知ったわ。
潰れるのは簡単だってね。
ほんと、一瞬で消え去るんだから。築き上げるのは並大抵の苦労じゃなかったのに。その努力と時間は比例しない。世の中ってそうよね。
「ストーン親子の居場所は、勿論把握しているのでしょ?」
お茶を飲みながら殿下に尋ねる。
「当然。不安分子の動向はチェック済みだ」
でしょうね。全てを失い、破滅したとはいえ、このまま放置って訳にはいかないでしょ。
常軌を逸した人間の思考なんて、普通の人間には到底理解出来ないんだから。何をしでかすか。また、計画するか分からないしね。アイリーン信奉者は皆厄介だからね。
ましてや、私や殿下が知らない所にも、信奉者がいる可能性大でしょ。唯一、まだまともだった父親も、子供の事に関しては駄目駄目だったからね。信用ならないわ。息子がおねだりしたら、渋々聞きそうだし。
不安分子のレッテルは一生剥がれないわね。
「今何処に、と訊いても宜しいでしょうか?」
「ああ。死んだ妻の故郷に向かってるみたいだ。そこに墓があるそうだ」
へ~~妻の墓にね……懺悔でもするつもりなの。まともな母親なら、旦那と息子を袋叩きにしてるわね。私ならそうする。
「そこに移住するつもりかしら?」
今回の事件は、あまり公にされてはいない。
なので、王都を離れれば、息子が犯した罪を知らない人ばかりだよね。商売に失敗したから、妻の故郷で一からやり直すって言えば、大概の人は信じ受け入れてくれるんじゃないの。苦労はするかもしれないけど。平穏な生活はおくれるよね。高望みしなければ。
それって、なんか理不尽じゃない。
ストーンのせいで実行犯にされた者は、鉱山に送られたのに。まぁ、情状酌量されて入れ墨はされなかったけど。それでも、罪人には違いない。もっと足掻いてくれれば、地獄を味わったのに。なんか、悔しいな。
「そうかもしれないが……」
ん? どうしたの? 珍しく殿下が言い淀んでいるわ。
「何か気になることでも?」
「いや……王都を去る前に、父親が遅効性の毒物を買ったって報告があったのが気になってな」
「遅効性の毒物ですか?」
自分で使うのなら、即効性だよね。とはいえ、他者に使うならどちらも可でしょうけど。
「ああ。複数回摂取することで効くものだ。ちょっと特殊なやつだな。無味無臭で、アルコールと混ぜても効能は変わらない。ましてや、死体からも毒は検出されない。ほぼ間違いなく自然死で処理される品物だ」
それはそれは。でも、使う人が限られる品よね。どの職種とは言わないけど。
「確かに特殊ですわね。……それで、その毒はいつ頃効き始めるのですか?」
「だいたい、一か月後だ」
一か月……。
「妻の故郷までは?」
「王都から荷馬車で二週間程掛かるな。但し、順調で進んだ場合だ」
ということは、三週間は見積もった方がいいわね。そこまで考えてハタッと気付いた。殿下が言い淀んだ意味を。
もしかして、父親は……。
その答えが出るのは、そう遠くない未来になるだろう。
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