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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
狼退治です
しおりを挟む魔鳥を放ってすぐだった。
呻き声と同時に、何か硬いものが複数回ぶつかる音がしたのは。
殿下とインディー様が助けに来てくれたのかな? 少し早過ぎると思うけど。
だからといって、簡単にドアを開けはしないわよ。確認もしていないし、万が一ってことがあるからね。用心に越したことはないわ。
念の為に窓の外を確認すると、兵士に押さえ付けられている男子生徒の姿を確認出来た。でも……少し不自然に思えた。
やがて静かになると、ドアをノックする来訪者。
「マリエール。大丈夫か?」
来訪者はドア越しにそう尋ねてくる。カイン殿下にしては声が少し低いわね。
サクヤに視線を向けると、小さく頷く。それを見て口角が上がる。
「…………カイン殿下ですか?」
出来る限り震える声で、そう尋ねてみた。目は爛々としてるけどね。
「そうだ。開けてくれ、マリエール」
心配そうな声で開けるよう促す声。でもその中に、ほんの僅かだが焦りを感じた。
勿論、私はその声に応えるつもりはない。だって、偽物だもん。
それにしても考えたよね。警戒して出て来ないのなら、出て来るように仕向ければいいんだから。でも、詰めが少し甘かったわね。
殿下と声質は似てるけど、発音が微妙に違うし、それに何より私が放った魔鳥がその場にはいない。それって明らかにおかしいよね。
無視してると、苛々してきたのか、乱暴にドアを叩き始める狼さん。
「開けろ!!!! マリエール!!」
やれやれ。メッキが剥がれ始めてるわよ。しょうがないか、にわか仕込みだからね。ちょっと残念。でも、遊ぶにはちょうどいいかな。本物が来るまで暇だし。そうと決まれば、早速遊ぼう。
「…………カイン殿下……腰が抜けてしまい、動けませんの」
声を震わせ、弱々しい声で言ってみた。さて、狼さんはどんな反応をするかな。
「そうか……マリエール、お前の私に対する愛情はそれぐらいしかなかったのか……とても残念だ」
嫌々、殿下はそんなこと言わないわよ。
力任せは駄目だと悟ったから、路線変更するのは分かるけど、さすがにこれはないわ……。とてもムカつくんだけど。最低発言もいいところよ。
要は、婚約者破棄されたくなければ開けろって言ってるのよね。恐怖で腰が抜けた婚約者に向かって。そんな男はこちらから願い下げ。まぁ偽者だから、そう言われても痛くも痒くもないけどね。
そんなことを考えてたら、魔鳥の気配を感じた。すぐ近くにね。それも、狼さんたちのすぐ背後にね。
窓の外では、既にインディー様が狼さんたちをのし終わっていた。
「……酷いことをおっしゃいますね。偽者さん。カイン殿下を真似るなら、もう少し勉強なさってからにしなさいな」
もう、遊びは終わりよ。
「なっ!?」
まさか、私が気付いているとは考えてもいなかったのだろう。ドア越しでも焦っているのが分かるわ。
「それよりも、自分の背後に気を配りなさい。……もう、遅いけど」
その声とほぼ同時だった。ドア越しに鈍い音が数回した。その後、
「ーー残ってるのは、お前だけだ」
怒気をはらんだ声が聞こえてきたのは。殿下、相当怒ってるわね。殺気をバシバシ感じる。
「ヒッ!!」という悲鳴の後、ドアに何かがぶつかる音がした。たぶん、男の背中ね。間近で殿下の殺気を感じたら、まぁ普通そうなるわよね。
「カイン殿下。殺したら駄目ですからね。一応、ここ学園内なので」
ちゃんと注意はしましたよ。
「分かったよ。マリエール。少し待ってて、このゴミすぐにのけるから」
ほんと、同じ人の言葉とは思えないわね。
「ありがとうございます」
今回、偽者さんの声音の精度は低かったからすぐに気付いたけど、正確に模写してたとしても、違和感を感じて気付いたでしょうね。
だって、殿下が私に語り掛ける声は、どんな時でも甘さを多く含んでいるから。
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