今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

第三章 超ハードモードの人生に終止符を

お茶会に招待されました

　三文芝居を無理矢理見せられた次の日の放課後だった。

　フォード様主催のお茶会が開催された。

　まぁ要は内密に話したいってことですよね。
　
　だから、招待されたのは私と殿下だけ。少し迷ったけど、色々訊きたいこともあったので参加することにしたわ。

　途中で邪魔されたくないので、場所は殿下が提供した。だって、あの阿婆擦れ、どこからか湧いて出てくるからね。あの黒いＧのように。

　ずばり、私が訊きたいことって、阿婆擦れの現状だよ。

　阿婆擦れとストーンによる三文芝居が切っ掛けになったのかは知らないが、とうとう阿婆擦れは伯爵家を追い出されたらしい。

　といっても、路頭に迷うってわけじゃないわ。まぁ、そうなっても自業自得だと思うけどね。実際、色々やらかしてるし。残念ながら、現実はそうじゃないけどね。寮生活になっただけで。学費も寮費もフォード伯爵家もち。

　ただ……貴族寮じゃなくて、平民用の大衆寮になったけどね。

　これに対して、阿婆擦れは納得いかなくて暴れたらしいわ。自分は伯爵令嬢だってね。フォード伯爵家に確かめに戻ったらしいけど、門前払いだったそうよ。まぁそうなるわよね。頼みの綱の伯爵夫人も、領地に送られたそうだし。

「学費はフォード伯爵家が持つのですか？」

　フォード様の謝罪が済んだところで、早速、気になったことを訊いてみた。

「はい。ここで放り出すのも外聞が悪いですし」

　苦笑しながら答えるフォード様。

　まぁ確かに、それは言えるよね。阿婆擦れに掛かったお金は勉強料ってとこか。高い勉強料になったわね。すると、

「退学になった時はどうするんだ？」

　ズバリ殿下が訊いてきた。

「勿論、その時点で我々フォード伯爵家は全ての援助を引き上げます。そもそも、学園を卒業した時点で、そのつもりだったので」

　それが妥当よね。

　つまり、学園を出てからは自分の足で進めってことね。とても親切だわ。無料で学びの場を与えられてるんだから。それって、凄く幸運よね。特に頭が良いわけじゃないのに。感謝しないといけないくらいよ。だけど……あの阿婆擦れに、そんな殊勝な気持ちがあるとは到底思えないわ。

「アイリーンさんは納得なさってらっしゃるの？」

　呼び方を変えた。貴族じゃないから、嬢はいらない。

　大衆寮になっただけで、あれ程騒いで暴れたんだから、この決定はさぞかし不服に思ってるんじゃないの。

「一応、これまで、何度か父上と兄上が苦言を呈してきました。教育もしようとしたのです。一応。しかし、アイリーンはそれを嫌がりました。用意した家庭教師から逃げ出し、父上と兄上の苦言を聞き入れなかったのは、アイリーン自身が決めたこと。
　この事態を引き起こしたのは、アイリーン自身です。
　今回のことも、執事が説明し手紙で説明しています。それを素直に聞き入れるかは、アイリーン次第だと思っております」

　その判断が出来る年齢だからね。つまり、これか最終勧告ってところね。

　そう語るフォード様も、表情が曇っている。忘れそうになったけど、フォード様は阿婆擦れと幼馴染みの関係だったよね。幼い頃からの知り合いだもの、複雑な気持ちになるよね。フォード伯爵家の人間として、幼馴染み二人を切り捨てないといけないんだから。それに、伯爵夫人のこともある。

「…………少しでも、立場を理解して頂ければいいのですが……」

　そう言うしかないよね。無理だと思うけど。

「おそらく、無理でしょう」

　フォード様は沈んだ声で、だがはっきりとそう告げた。