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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
またですか……
しおりを挟む私と殿下とそんな話をした次の日。
私たちの期待通りに、阿婆擦れは登園して来た。馬車に乗って。相変わらず、平民の一部の方々には人気があるわね。
馬車の中から殿下とその様子を観察していた。
あ~~また、門の前で待ってるわね。マジで、ウザいんですけど。テンション下がるわ~~。
「眉間に皺を寄せるな。そんな顔のマリエールも可愛いけどな」
殿下が私の眉間を突きながら囁く。
眩しいっ!! 今日も朝から意味もなくキラキラだわ~~。この笑顔に騙される人、絶対多いわ。阿婆擦れは別として。
「ほんとに、マリエールは俺の顔に慣れないな。そこも可愛いんだけど」
「なっ!! 朝から何を言ってるんですか」
慌てて距離をとる私。といっても、馬車の中だから殆ど逃げられないけど。それに、乗ってるのは私と殿下だけじゃないからね。
赤い顔をして逃げた私を、殿下はちょっと困ったように笑う。それも板について格好いいから腹が立つ。
結論。美形はどんな表情も様になるのだ。
それに比べ、私は平凡顔よね。中の上ぐらい。せめて、もう少し目が大きかったら、少しは見栄えしたと思うけどね。
「では、行こうか。お姫様」
微笑みながら手を差し出す殿下。私は少し視線を逸らせながら殿下の手を取った。
馬車から降りると、近くにいた生徒が挨拶してくる。それに答えながら、私と殿下は門を潜り校舎に向かって歩く。
すると、早速近付いて来たわ。阿婆擦れが。それも、凄いスピードで。
ぶつかって来そうな勢いだったので、無意識と躱そうと体が動く。動いた先に殿下が。自然に殿下の胸に抱かれる形になった。
「あっ、ありがとうございます。カイン殿下」
そう口にしたのとほぼ同時に、悲鳴が上がった。
「いった~~い。マリエール様、酷いです」
はぁ!? 何言ってるの。
ウルウルとした目で私と殿下を見上げ、地面に座り込む阿婆擦れ。
「何を言っている?」
冷ややかな殿下の声。その声にも怯まずに、阿婆擦れは自分の容姿を最大限に利用する。
「そんなに私が憎いですか? マリエール様」
ポロリと涙を流しながら、阿婆擦れは訴える。
こかしたとは言わないところが、却って腹が立つわね。人集りも出来るし。
すると、またしても馬鹿が人集りを押し退けて駆け寄って来た。ストーンだ。幼馴染みだけどアイリーン信者の一人。停学仲間ね。
「大丈夫か!? アイリーン!!」
また三文芝居が始まったわ。
「……大丈夫。ちょっとコケただけだから」
「また、こかされたのか!?」
阿婆擦れの肩を支えながら、ストーンは私を睨み付ける。完全に不敬よね。
それにしてもまたって……。誤解を招きかけないことを言わないでよ。
「さっきから、何を言っている? お前たちは、マリエールがわざと足を引っ掛けたと言いたいのか?
そもそも、どうやって足を引っ掛けるんだ? そこにいる女の前を歩いていた俺たちが」
殿下は完全に馬鹿にしたような口調で吐き捨てる。
ザワつく周囲。この場にいる大半の生徒が、殿下の言葉を後押しする。黙っているのは、信者ぐらいね。その信者たちも、周囲から冷たい目で見られてるけど。信者たち誰一人、その視線に気付いてないのが不思議だわ。おそらく、私たちが見ている景色を見ているわけじゃないのね。
「カイン様。どうして………?」
目一鉢ウルウルとさせながら呟く阿婆擦れ。計算されたかのように、涙がツーと頬を伝って落ちる。
心底呆れるわ。貴族も勿論だけど、平民でも公衆の面前で泣かないわよ。
「アイリーン嬢。俺は君に名前を呼ぶことを許したつもりはない。今後、俺の名前を口にするな」
心底不愉快そうな声で殿下は禁じた。前にも何回も言ってるんだけどね。
阿婆擦れは名前を呼ばれて嬉しそうだ。まぁそうよね。先日まで、フォード嬢と言っていたから。絶対勘違いしてるわ。でも実際は、フォード伯爵家の養子じゃないから、名前呼びにしただけなんだけどね。
それにしても、そろそろ、この三文芝居にも飽きたんだけど。そう思っていたら、殿下は私の腰に手を回したまま、校舎に向かって歩き出した。殿下も飽き飽きしてたのね。
そうそう、当然その光景を遠くから見ていたユズが、お父様にしっかり報告するのでしょうね。
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