184 / 354
第三章 超ハードモードの人生に終止符を
牙を剥いて喉元を噛むでしょうね
しおりを挟む「……今日も殺気を含んだ目で睨んでいましたね」
学園帰りの馬車の中でそう切り出したのはユズだ。私専用の戦闘侍女。クライシスさんに仕込まれた強者だよ。
改めてマジマジ見ると、完全にその侍女服も板についたよね。で、その服の下にどんな武器を忍ばせてるの。ちょっと興味あるわ。ハンター業務の参考になるしね。それにちょっと格好良くない?
「マリエール様?」
ああゴメン。現実逃避してたわ。
返事がない私の顔を心配そうに覗き込む。そして、額に手を当て熱を計る。
体調を崩したと思われたみたい。そんなに柔に出来てないって。ほんと、ユズもそうだけど、王都の屋敷にいる皆は過保護気味なんだよね。ユズ、近いって。
「……熱はないですわ。少し疲れただけ。
それにしても、あんな目で私を睨む程辛いことが身に起きたのですもの、誰かのせいにしないと自分が保てないのでしょう」
それが逆恨みでも。
私を睨んでいた女の名前はアイ。アキの妹だ。
二人の名に全く聞き覚えがなかった。
だけど、報告書に添付されていた写し絵の、アキの顔には見覚えがあった。顔を合わせたのは二回しかないけどね。それも数分ぐらい。一言、二言ぐらいしか言葉を交わしていない。あっ、でも、あれは交わしたうちにはいらないか……。
それで何故覚えてるかって。
それは、中々いい出迎えをしてくれたからよ。領地の屋敷でね。もう……四年前になるかな。
廃棄する程の古い茶葉を出し、お茶一つ淹れなかったからね。ましてや、通された部屋が掃除も碌にされてない客室だよ。それをしたのがアキだった。
元々アキの恋人が、婚約者って言っていいのかな、その彼の家族がラング家によって殺されたらしい。後で知ったけどね。別に驚きはしないわよ。あの二人は本当に屑だったからね。平民なんて、使い捨てが出来る玩具と思ってたんじゃない。反吐が出るわ。
愛する人の苦しみと悲しみを間近で見ていたから、グリード公爵家の養女になったとはいえ、ラング家の血を引く私をアキと彼は許せなかった。
恩があるグリード公爵家に寄生する害虫とでも思ったんじゃない。だから、あんなことをしでかしたのね。
結果、彼と共々屋敷を追い出されたけど。
その後は悲惨だったらしいわ。始めは少し同情的だったらしいんだけど、お母様は民の前で私がラング家でどの様な扱いを受けていたのかを話したらしいわ。
それによって、周囲の目はガラリと変わった。
二人は町を追いやられ、アキは流産し、それが原因で病気になり、医者にも掛かれずに亡くなった。彼も後を追うように、アキの墓標の前で自殺したそうよ。
長年乳母をしていた、二人の母親も去年亡くなり、天涯孤独になったアイは全てを引き払い町を出て王都に来た。
アイにとって、私は家族を死に追いやった憎い相手なんでしょうね。
「マリエール様はお優し過ぎます。
王都に来るまではまだ理解出来ます。出来ますが、マリエール様が在席している学園にわざわざ就職したのは、どう考えてもおかしいです。何か意図があって来たとしか思えません。そうでなければ、マリエール様をあのような目で見たりしません」
ユズが考え直すよう力説します。
ユズの考えを否定する気はないわ。私もそう思ってるし。そもそも、あんな目で見てくる人間が、何もしないでいるとは思えない。いずれ、機会が訪れれば、アイは牙を剥き私を噛もうとするでしょうね。
平民が貴族を害しようと考えいる。
普通なら、排除されても文句は言えません。ユズの言う通り、排除することが正しいことだと理解してるわ。だけど……私は躊躇った。ただそれだけ。だから、私はユズの言葉を否定する。
「優しくはないわ。ただ、甘いだけよ」と。
そう。私は優しくない。
苦笑しながらそう答えると、話はお終いとばかりに車窓に目を向けた。
28
お気に入りに追加
5,474
あなたにおすすめの小説

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~


【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。
ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる