今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

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第三章 超ハードモードの人生に終止符を

牙を剥いて喉元を噛むでしょうね

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「……今日も殺気を含んだ目で睨んでいましたね」

 学園帰りの馬車の中でそう切り出したのはユズだ。私専用の戦闘侍女。クライシスさんに仕込まれた強者つわものだよ。

 改めてマジマジ見ると、完全にその侍女メイド服も板についたよね。で、その服の下にどんな武器を忍ばせてるの。ちょっと興味あるわ。ハンター業務の参考になるしね。それにちょっと格好良くない?

「マリエール様?」

 ああゴメン。現実逃避してたわ。

 返事がない私の顔を心配そうに覗き込む。そして、額に手を当て熱を計る。

 体調を崩したと思われたみたい。そんなに柔に出来てないって。ほんと、ユズもそうだけど、王都の屋敷にいる皆は過保護気味なんだよね。ユズ、近いって。

「……熱はないですわ。少し疲れただけ。
 それにしても、あんな目で私を睨む程辛いことが身に起きたのですもの、誰かのせいにしないと自分が保てないのでしょう」

 それが逆恨みでも。

 私を睨んでいた女の名前はアイ。アキの妹だ。

 二人の名に全く聞き覚えがなかった。

 だけど、報告書に添付されていた写し絵の、アキの顔には見覚えがあった。顔を合わせたのは二回しかないけどね。それも数分ぐらい。一言、二言ぐらいしか言葉を交わしていない。あっ、でも、あれは交わしたうちにはいらないか……。

 それで何故覚えてるかって。

 それは、中々いい出迎えをしてくれたからよ。領地の屋敷でね。もう……四年前になるかな。

 廃棄する程の古い茶葉を出し、お茶一つ淹れなかったからね。ましてや、通された部屋が掃除も碌にされてない客室だよ。それをしたのがアキだった。

 元々アキの恋人が、婚約者って言っていいのかな、その彼の家族がラング家によって殺されたらしい。後で知ったけどね。別に驚きはしないわよ。あの二人は本当に屑だったからね。平民なんて、使い捨てが出来る玩具と思ってたんじゃない。反吐が出るわ。

 愛する人の苦しみと悲しみを間近で見ていたから、グリード公爵家の養女になったとはいえ、ラング家の血を引く私をアキと彼は許せなかった。

 恩があるグリード公爵家に寄生する害虫とでも思ったんじゃない。だから、あんなことをしでかしたのね。

 結果、彼と共々屋敷を追い出されたけど。

 その後は悲惨だったらしいわ。始めは少し同情的だったらしいんだけど、お母様は民の前で私がラング家でどの様な扱いを受けていたのかを話したらしいわ。

 それによって、周囲の目はガラリと変わった。

 二人は町を追いやられ、アキは流産し、それが原因で病気になり、医者にも掛かれずに亡くなった。彼も後を追うように、アキの墓標の前で自殺したそうよ。

 長年乳母をしていた、二人の母親も去年亡くなり、天涯孤独になったアイは全てを引き払い町を出て王都に来た。

 アイにとって、私は家族を死に追いやった憎い相手なんでしょうね。

「マリエール様はお優し過ぎます。
 王都に来るまではまだ理解出来ます。出来ますが、マリエール様が在席している学園にわざわざ就職したのは、どう考えてもおかしいです。何か意図があって来たとしか思えません。そうでなければ、マリエール様をあのような目で見たりしません」

 ユズが考え直すよう力説します。

 ユズの考えを否定する気はないわ。私もそう思ってるし。そもそも、あんな目で見てくる人間が、何もしないでいるとは思えない。いずれ、機会が訪れれば、アイは牙を剥き私を噛もうとするでしょうね。

 平民が貴族を害しようと考えいる。

 普通なら、排除されても文句は言えません。ユズの言う通り、排除することが正しいことだと理解してるわ。だけど……私は躊躇った。ただそれだけ。だから、私はユズの言葉を否定する。

「優しくはないわ。ただ、甘いだけよ」と。

 そう。私は優しくない。

 苦笑しながらそう答えると、話はお終いとばかりに車窓に目を向けた。


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