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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
約束した筈なのに
しおりを挟む「約束した筈ですが……」
目の前にいる人物を見て、思わず盛大な溜め息を吐いてしまう。ボヤいても仕方ないわね。そう約束した相手は、この場にはいないのだから。フォード様が体調を崩した隙をつかれたらしょうがないわね。
「それで、私の前を塞いで何をなさりたいのかしら? ストーンさんとアイリーン様」
周りを見てみたら。顔を顰めている人が殆どでしょ。私ではなく貴方たちに。まぁ、盲目的な恋をしている貴方には全く見えないでしょうけど。
「謝れ!!!!」
いきなりですか。
「何に対してです?」
「決まってるだろ!! アイリーンにだ」
その名前にザワつく周囲。当然の反応ね。今この学園内で、殿下と私に次ぐ有名な名前だからね。悪い意味で二人とも。
「何故です?」
見当もつかないわ。逆はあっても、私からはないわ~~。
「お前の陰湿な苛めのせいで、あんな目にあったんだ!! 謝って当然だろ!!」
「苛め? 何のことです? 私はしておりませんが。そもそも会ったのは二度目ですよ。学年も違いますし。会話すらしたことがありませんよ。逆にお訊きしますが、何故私がアイリーン様を虐めなくてはいけないのかしら?」
逆に教えてくれる?
「それは、殿下とアイリーンが運命の番だからだ。
嫉妬して、あんたはアイリーンを陥れたんだろ!! そりゃあ、あんたは悔しいよな。元平民に殿下を奪われたんだから」
ニヤリとストーンは嗤う。汚い笑顔だ。歪な優越感に浸ってる感アリアリね。完全に目がいっちゃってるわ。変な薬物でも飲んだの。まぁどっちでも構わないけど。
それにしても、いつ殿下が取られたの? ほぼ毎日顔を合わしているのに? そんな時間あるの? あるわけないじゃない。
それに、運命の番? 獣人や竜人たちには、そんな相手がいるとは聞いたことがあるけど、人族の間では聞いたことはないわ。
「アイリーン様って、獣人か竜人の血を引いてらっしゃるの? 知りませんでしたわ」
「ひっ、酷い……」
ここに来て初めて声を出したわね。ストーンの後ろで、ピンク頭の女は涙を堪えながら立っている。目薬でも仕込んだの。
「何、訳の分かんねーこと言ってるんだ!! とことん、人を馬鹿にしやがって!!」
「馬鹿にしてませんよ。ストーンさんが運命の番だと仰ったから、お訊きしたまでのこと」
何も間違ったこと言ってないけど。間違ってるなら、反対に言ってみなさいよ。あぁ? そろそろ私の忍耐も限界だわ。
「アイリーンと殿下は過去世で恋人同士だったんだ。やっと今世で出会ったのに、お前がいるせいで。あぁ、なんて可哀想なアイリーン」
最後は芝居じみた声で嘆く。ピンク頭の女もポロポロと泣き出した。周囲も私もドン引きだ。
アイリーンと殿下が過去世で恋人同士だった!? 何言ってんの? そんなことあるわけないでしょ。過去世も今世も、恋人は私だけよ。
そういえば……一人だけ、付き合っていないのにいるって、ほざいていた女がいたわね。……ああなるほど。そういうことか。
だとしたら、あの糞女神の加護や気配が色濃く出ていて当然ね。ほんと、とてもとても懐かしい方と出会ったわ。
だって、この女は……
「こ、怖い。そんなに睨まないで」
失礼な。睨んでませんよ。
ピンク頭の女はストーンの腕に縋り付く。そしてストーンは、私を殺意が籠もった目で睨み付ける。そんな目で睨まれても、ちっとも怖くはないけどね。
それよりも怖いのは、ストーンとピンク頭の女の後ろにいる人よ。完全に表情がなくなってるわ。この殺気に気付かないなんて、二人ともなんて鈍感なの。生存本能、退化してるんじゃない。
腰を抜かしている人もいるし、そろそろ振らないと収拾がつかなくなるわね。物理的に排除しそうだし。仕方ない。
「と、仰っていらっしゃいますが、どうなのです? カイン殿下」
私は魔王化している殿下に話を振った。私、ここから逃げていいかな。あっ、駄目ですか……。
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