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第三章 超ハードモードの人生に終止符を

なくしたら致命的だよね

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「グリード様」

 移動教室の帰りに呼び止められた。振り返ると後ろに立っていたのは、フォード伯爵令息だった。
 
 ちょっと吃驚。そんな風に呼ばれたのは初めてだわ。私をマリエール様と呼ばないあたり、好感がもてた。だって、考えみて。たいして知り合いじゃない、只の同級生が馴れ馴れしくマリエール様とかマリエール嬢って呼ぶんだよ。あまり荒立てなくないから、敢えて何も言わないけど、正直言うと嫌だ。

 でも、フォード伯爵令息は私のことを名前で呼ばなかった。まぁ好感がもてたって言っても、立ち止まる程度だけどね。勿論、サクヤも一緒だよ。

「何かしら、フォード様」

「私のことをご存知でしたか」

「ええ。昨日、掲示板の近くにいましたから」

 私がそう答えると、フォード様は苦虫を噛み殺したような表情を見せた。

「そうですね。あのような騒ぎを起こせば、顔を覚えられても仕方ありませんね」

 そう言いながら苦笑する。

 私はそんなフォード様の仕草、表情、声のトーンを観察する。淑女の仮面の下で。

「それで、私を呼び止めた理由は何でしょうか?」

 十中八九、ピンク頭の女と商会の馬鹿坊っちゃんの件ね。可哀想に。親にとりなすよう言われたみたいね。

「度重なる無礼申し訳ありませんでした。アイリーンもそうですが、デェイルも非礼な態度を。グリード様を睨み付けるなんて、逆恨みもいいところです」

 頭を下げ謝罪する。

「貴方の友人、ニ週間の停学だとか……」

 そう告げると、フォード様の体が強張る。それは友の身を案じてか、私からの報復を恐れてか。どっちにせよ、私には関係ないわね。

「フォード様。貴方からの謝罪は不要ですわ。当人ではありませんので。今後一切、二人を私に近付かせないで下さいませ」

 明確な線引をしておく。

「……分かりました」

 神妙な面持ちで答えるフォード様。顔色は真っ青だ。可哀想な程にね。ほんと、尻拭いも大変だ。

 まぁでも、この場は受け入れるしかないよね。それ以上グダグダ言わないところをみると、馬鹿ではないようね。言葉の意図がちゃんと伝わったみたい。

 ーーピンク頭の女と馬鹿坊を近付けさせるな。

 つまり、二人の謝罪も不要だということ。

 謝罪を受け取らない。それは即ち、グリード公爵家はフォード伯爵家と一切関わらないと、明確にしたのだ。王家の次に力があるグリード公爵家にそんな態度を取られたら、これから先フォード伯爵家は大変だよね。信頼を一気になくしたんだから。貴族は信用をなくしたら致命的だからね。尚更だ。当然、ストーン商会もね。両家に、それを補うだけの才能がある人がいればいいけど。

 言うべきことは言ったし、これ以上の会話は不要ね。

「では、授業がありますので」

 私は会話を打ち切り、フォード様に背を向け歩き出す。立ち去らないフォード様の視線を背中に感じながら。



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