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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
ピンク色の髪の少女
しおりを挟む「おはようございます。カイン殿下」
目の前で欠伸をしているのは私の婚約者のカイン殿下。高等部に進級してからは、ほぼ毎朝迎えに来てくれます。
「おはよう。俺のマリエール。今日も可愛いな」
相変わらず、恥ずかしい台詞を平然と。俺のって何? やっぱり慣れないわ。
「今日は特に眠そうですね」
照れを隠しながら答えると素っ気なくなってしまう。
「溜まっていた仕事を片付けてたからな。マリエール、膝貸して」
許可するより先に、もう頭を乗せている。足を撫でるな。さすがに、ピシッと不埒な手は叩き落としたわよ。
「……仕方ありませんね」
頭を乗せられたら、押し退けれないでしょ。拒否しないのが分かってて、殿下は目を閉じる。すぐに規則的な寝息が聞こえてきた。
疲れてるわね。少し痩せたかな。昨日は然程思いもしなかったけど。考えてみればそうよね。糞女神の件だけでなく、それ以外に王太子としての仕事もこなしている。疲れて当然よね。体を壊さなければいいけど。私が出来ることは限られてるけど、手伝えることがあれば手伝いたいな。
にしても、美形は寝てても美形よね。睫毛長っ。羨ましいわ。日に焼けない肌ってどうよ。こっちは、日焼けをしないように日々肌には気を付けているのに。なんか、悔しい。髪サラサラだし。
モチモチ肌の頬を突いてみる。起きないわね。なら、ちょっと強めに。やっぱり起きない。ほんとに疲れてるのね。これ以上は止めとこう。起こさないように、私は車窓に視線を向けた。
だから気付かなかった。殿下の口元に笑みが浮かんでいたのを。
「マリエール」
学園に着いた殿下が一足先に降りると、私に手を差し出す。
途端に上がる溜め息混じりの歓声。
「ありがとうございます。カイン殿下」
私はいつもと同じ様に、殿下の手に右手を添え馬車から降りた。
私には上がらないのよね。代わりに聞こえてくるのは、
「カイン殿下、今日も一段と凛々しくて麗しいですわ」
「マリエール様も可愛いですわ」
「ええ。撫で撫でしてあげたいですわ」
聞こえないように小声で言ってるみたいだけど、はっきりと聞こえてるわよ。
確かに殿下は美形だわ。だから、その感想は頷けるわ。でもね、私に関しての感想は何!? 可愛い。撫で撫でしたい。分かってるわよ。十四になっても、大して成長してないことぐらい。背は少し伸びたけど、大事な所が全く成長してないのは何故!? 悲しいことに真っ平ら。殿下は笑いを堪えてるし。マジ、腹立つ。でも、私は淑女。淑女なの。淑女、淑女。もう、一種の自己暗示よね。取り敢えず、さり気に殿下の足は踏んだけどね。
「おはようございます。皆様」
さも今気付いたように、ニコッと微笑み挨拶する。
「「「「おはようございます。マリエール様」」」」
この光景も慣れたわ。ほんと、四年前とは正反対の反応よね。今、王家の次に力があるのがグリード公爵家だからね、擦り寄る人も多い多い。貴族社会ってマジ怖いわ。まぁ、私もその一員なんだけどね。
「行こうか。マリエール」
殿下にエスコートされながら教室に向かう。学園の門を潜った時だった。
ん? 何?
背後から近寄って来る人の気配を感じた私は振り返らずに避けようとしたが、殿下に手を引かれる。
「大丈夫か?」
殿下が屈んで尋ねてくる。顔近いって。
「大丈夫ですわ。ありがとうございます、カイン殿下。……それよりも、大丈夫ですか?」
私は目の前で転けた女生徒に手を伸ばす。女生徒は涙目で私を見上げる。ピンク色の髪をした可愛らしい少女だった。その少女を見た瞬間、ゾワッと悪寒が走った。
「すみません。ありがとうございます、マリエール様。遅刻しそうだったので」
ニコッと笑う女生徒。でも、目が笑ってはいない。
名前で呼ぶことを許可していないのに、ましてや、名乗りをしていないのに名前呼びとは。良い教育をされてるようね
「危ないですよ。気を付けてくださいね。保健室に行きますか?」
不快に感じていることを相手に悟られないようにしながら声を掛ける。
「大丈夫です」
「そうですか?」
「マリエール。行こうか」
殿下が私の腰に手を回す。
「ええ」
私は殿下に促されその場を後にした。腰に回されてる手に力が入っているのに気付く。
もしかして、殿下も感じたの……?
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