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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
早く振り返りなさいよ
しおりを挟む「お父様。ここからは私が」
そう告げると、ディア様はポーター公爵から黒色のブレスレットを受け取る。そして、取り押さえられてる殿下の前に立った。
愛おしい目で殿下を見詰めると、その綺麗な肌に手を添え告げた。
「カイン様。私は全てを許しますわ。
だって、カイン様は国王陛下と王妃様のために己を殺して、この犯罪者の娘と婚約したのだから」と。
さっきの台詞といい、完全に自分に酔ってるわね。私のことを犯罪者の娘って言ってるけど、現在進行形で犯罪を犯しているアンタには言われたくないわ。
反論しようにも、猿轡を噛まされて何も言えない。
「はぁ!? 何言ってるんだ!? 俺はマリエールを愛している。マリエールしかいらない」
被っていた猫が全部逃げ出したわね。王子様口調はどこいった。まぁでも、気持ちは分かるけどね。っていうか、膝痛い。
「可哀想なカイン様……。
自分の本当の気持ちを偽り続けて、自分を見失ってしまうなんてーー。
もう大丈夫ですわ!! もう我慢をしなくていいのです。私がカイン様を救って差し上げますわ。そして、共に一緒に未来を歩んで行きましょう」
「はぁ!? 誰がお前となんかと未来を歩めるか!! 俺はマリエールと一緒に生きて行くんだ!!」
二度目の「はぁ!?」ですね。私も「はぁ!?」って言いたいわ。
「そう言えと、マリエールに言われているのですね」
キッと私を睨み付けるディア様。
いやいや、そんなこと私言ってないし。とことん、現実を直視出来ないのね……ここまでくると、哀れっていうか、可哀想としか思えないわ。
「…………お前は哀れな奴だな」
ポツリと殿下は呟く。もう、反論するのも無駄だと思ったようだ。だって、ディア様は元々殿下の話を聞くつもりがないようだ。そんな相手に言葉を投げても虚しいだけでしょ。
「洗脳されてしまって……
私がその洗脳を解いて差し上げますわ。私の愛で殿下を以前の優しい殿下に戻してみせます」
いや、それ愛じゃないよね。
そう告げると、ディア様は偽オルガ義兄様に視線を移した。その目はとても暗く澱んでいた。まるで、黒色のプレスレットをしているかのように。
偽オルガ義兄様は小さく頷くと、殿下の右手をディア様の方に向けさせた。
「これで、殿下は救われますわ。昔の私だけの殿下に求まるんです」
澱んでいた目に光が戻る。といっても、黒い光だけど。
ディア様は父親から受け取ったプレスレットを、殿下の右手首に嵌めようとした。
その時だったーー。
ディア様の腕を偽オルガ義兄様が掴む。そして捻り上げた。
プレスレットは偽オルガ義兄様の手の中。
「何をするのです!! その手を離して!! オルガ様!!」
ディア様は叫ぶ。だけど、偽オルガ義兄様はその手を離すことはなかった。反対に益々捻り上げる。
「貴女はもう終わりですよ。ディア=ポーター。謀反及び禁術の使用、マリエール公爵令嬢、カイン殿下の殺人未遂で拘束する」
淡々と罪状を述べる、偽オルガ義兄様。
「なっ、何を言っているのです。手を離しなさい!! これは、命令よ!!!!」
現実が把握出来ていないディア様は、まだ叫び続ける。一度でも後ろを振り返れば、全てが終わっていることに気付くのに。ほんと、残念だわ。
だって、貴女のお父様は猿轡を噛まされて、蓑虫のように転がされているわよ。
「淑女が大声で叫ぶなんてみっともないですわよ」
「ど……どうして、開放されてるのよ!!!!」
今日一番の大声ね。
「どうしてって。もう芝居をしなくてもいいからですわ。そうでしょ、殿下」
芝居とはいえ、猿轡に膝強打。結構痛かったわ。開放された時点で治癒魔法を掛けたから、今は痛くないけど。ドレスも汚れちゃったわね。
「芝居だったが、俺が言ったマリエールの気持ちは本心だぞ」
それは嫌って程分かってるわよ。
「嘘よ……嘘に決まってるわ!!」
「そう思うなら、後ろを見れば」
ニッコリと微笑みながら、後ろを見るよう促す。蓑虫状態の父親を見て、貴女はどんな反応をするのかしら。楽しみだわ。ほら、早く振り返りなさいよ。
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