上 下
159 / 354
第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります

本当に私は大馬鹿者だ

しおりを挟む


 薄っすらと明るくなり始めた時間になって、お父様はやっと屋敷に戻って来た。

 無事戻って来たことにホッと胸を撫で下ろす。

 私はクライシスとアンナと一緒に、お父様を出迎える。クライシスもアンナも「仕方ありませんね」と、苦笑しながらも許してくれた。ほんと優しい。

「お帰りなさいませ、お父様」

 お父様は私を見て吃驚している。

「起きていたのか……」

 お父様は私を見て一瞬眉を顰めたが、すぐに苦笑へと変わった。表情の割に雰囲気は柔らかい。

「気になって眠れるわけありませんわ」

 私がそう答えると、一言「そうか……」と笑みを深くする。普段はあまりしないが、私の髪の毛をクシャと搔き乱す。撫で撫での最上級だ。

 一通り撫で終わると、いつものように抱っこされてそのまま部屋へと運ばれる。

 隈が酷くなってる……

 抱っこされてるからかな。いつもより距離が近い。だからかな、熊のようなお父様が酷く疲れているのに気付いた。まぁ一芝居打つんだから疲れるわね。でもその割には、隈が酷い。化粧でも隠し切れないくらいに。

 ……私、本当に馬鹿だ。大馬鹿者だ。

「…………お父様。ごめんなさい」

 心配で眠れなかった。なのに私は、一か月以上家をあけていた。それも黙って抜け出した。ましてや、言ったらいけないことを言ってしまった。

「いいか、マリエール。俺はマリエールを実の娘だと思っている。オルガたちと同様にな。
 だから二度と、自分を犠牲にするようなことを言わないでくれ。やらないでくれ。グリード家よりも、マリエールの方が大切なんだ」

 その言葉は貴族としては駄目なものかもしれない。甘いって言われるかもしれない。だけど、人間として親としては最高の言葉だよ。私って幸せ者だよね。改めて、心からそう思った。だけど……

「…………ごめんなさい」

 ーーはい。もう二度としません。

 本当はそう言いたかった。お父様を安心させたかった。でも、糞女神を倒すと決めた以上、その言葉は言えない。どうしても……

 ごめんなさい。お父様……




「マリエール。少しは寝られたか?」

 昼過ぎに起きた私に、お父様が話し掛けてきた。

「はい」

「そうか……よかった」

 ニカッと笑うお父様の側に行くと、私はお父様に向かって手を伸ばした。抱っこかと思ったお父様は私の両脇の下に手を伸ばした。

「違います。しゃがんで下さい」

 私がそうお願いすると、お父様はしゃがんでくれた。

 お父様の両頬に両手を添えると治癒魔法を掛けた。気休めかもしれない。でも少しでも、楽になってもらいたいから。 

「ありがとう、マリエール。楽になったよ」

 熊さんの笑顔は私を幸せにしてくれる。なのに、お父様の笑顔が消えた。

「……お父様?」

「マリエール。殿下に手紙を書いてくれないか。屋敷で会いたいって」

 厳しい表情でお父様が私に頼む。

 ポーター公爵家でことを進めずに、グリード公爵家でやるつもりなのね。おそらく、お父様がそうもっていったのね。分かりましたわ。

「すぐに、手紙を書きますわ」

 私はニッコリと笑いながら答えた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...