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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
深い闇(侍女目線)
しおりを挟む片付けられた執務室に集められたのは、マリエールたちではなく、この屋敷で働く者たちだった。全員ではないが。
侍女長と侍女がニ人と料理長と料理人。そして、執事の六人だ。
皆、緊張した面持ちで立ち尽くしている。
その様子を女主人であるレイアは、何も言わずに静かに観察していた。そのただならぬ様子に、集められた使用人たちは顔色を失っなっている。理由を知っている執事を除いて。
その中で、一番顔色を失っていたのはアキだった。そう……マリエールとサクヤを案内した侍女だ。そして、お茶一つ淹れようとしなかったのも、アキだった。
チラリとアキは恋人のケイトに視線を送る。ケイトは若干青くなりながらも、唇を強く噛み締めていた。
アキはケイトの苦しみを間近で見てきた。今も、夜中悪夢で目を覚ますこともある。悪夢の原因はラング家だ。
ラング家は散々平民や使用人を虐げていた。その血を引いてるあの子がいい子の訳がない。現にオルガ様が嵌められた。
だから、私は悪くない。悪いことなんて何一つしていない。アキは自分に言い聞かす。まるで、自分に暗示を掛けるかのように。
「……マリエールを案内したのはアルではなく、アキ貴女ですね」
長い沈黙の後、やっと放たれた声は、とても低いものだった。
そしてそう尋ねるその目は、目を合わせた者を凍てつかせてしまうほど冷たかった。
実際、雨に濡れた子犬のようにブルブルと震えるアキに対し、レイアは淡々と尋ねる。隣には次期公爵のアルが、母親と変わらない程の冷たい目で見下ろしている。そこには、乳兄妹である自分に対しての情など全く見えなかった。
「アキ。君も手伝っていたよな。マリエールの部屋の用意を。私の記憶違いだったか」
確かに不満がありながらも手伝っていた。皆そうだ。だって、本来ならあの部屋は、
「…………おっ、おかしいです。本来ならあのお部屋は、お生まれになる若君かお嬢様のお部屋です。少なくとも、ラングの娘の部屋ではありません。
それに、オルガ様を窮地に追いやったのも、あのラングの娘ではありませんか。
自分で窮地に追いやりながら、その様子を見に来るなんて、悪趣味です」
「……そう。それが貴女の言い分ね。
だから、貴女は廃棄する筈の茶葉を持って行き、お茶さえ淹れずにいたのね。ましてや、軽食さえ用意しなかった。
私の大事な娘にね……
それと、今この場ではっきりと断言しますが、オルガの件はマリエールのせいではありませんよ。反対にマリエールの方が被害者です。分かりましたね」
レイアは娘の部分を特に強調して話す。そのことに動揺する使用人たち。
ここにきて、始めて自分たちが何をしでかしたか気付き始める者たちもいた。中には、自分がしたことに悪びれない者もいる。
思った以上に、根が深いことをレイアとアルは改めて思い知った。だからこそ、曖昧に終わらせることは出来ない。
「確かに、マリエールはラングの血を引いているわ。なら、ここにいるアルもオルガもラングの血を引いてはいるわね。
……ここにいる者の中には、ラング家に迫害された者もいるわ。でもね、その怒りを十歳の子供にぶつける貴方たちはどうなのかしら。それも、親に虐待され続けた子供に対してね」
「それは………でも!「でもも何もない」
まだ言い訳をしようとするアキの言葉をレイアは遮る。
「アキ。貴女がそこにいる自分の恋人を想う気持ちも分かるわ。
だからといって、許せることと許せないことがあるの。
今すぐそこにいる恋人とともに、この屋敷から出て行きなさい。主を主と思わない使用人はいらないわ」
レイアはアキと料理人の青年を躊躇うことなく解雇した。
まさか、そこまでされるとは考えてもいなかった。簡単に切り捨てられない。そう信じ込んでいた。
だって、グリード家は普通の貴族の家じゃないからーー
「待って下さい!!」
アキは必死で嘆願する。ここを辞めさせられたら、生活に困る。私のお腹には……
「こんなの、あんまりだ。俺の親はラング家に殺されたんだ!!!!」
詰め寄るケイトは騎士によって取り押さえられている。
「だから、ケイト貴方は、十歳の子供を虐げるの。それって、まるで、貴方が憎むラング家と同じことをするのね」
突き付けられた言葉に、ケイトは何も言い返すことか出来なかった。憑き物が落ちたかのように、その場に力なく座り込む。
騎士はそんなケイトとアキを執務室から引きずり出した。
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