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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
痛くも痒くもないからね
しおりを挟む「なっ!! これは、どういうことだ!!!!」
殿下が怒鳴る。その声は廊下に響いた。開けた途端怒鳴ったから当たり前だよね。
その声を聞いても誰も来ないって……自ずと自分の立場を皆に話してるようなものね。苦笑するしかないわ。
「サクヤ。ドアを閉めて」
私は溜息を吐きながら頼む。
殿下とインディー様が入ってきた。騎士団長様と師団長様はいない。ということは、独自で動いてるってことね。
渋々殿下は私の前の席に腰を下ろす。インディー様は殿下の後ろに立つ。いつもの定位置。
私は立ち上がると頭を下げた。
息を飲む殿下とインディー様。殿下の顔が険しく歪む。
「殿下に不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
私のことはどうでもいい。
だけど、殿下の怒鳴り声に反応しなかった、駆け付けて来なかった従者や侍女に対して、主人の家系である私が謝らなくてどうするの。お母様やアル義兄様がこの場にいない以上、グリードを名乗っている私が謝るのは当然だ。
「どうして、マリエールが謝るんだ?」
不快感を隠そうともしないで、殿下は私に視線を合わせ尋ねる。
「本来ならば、カイン殿下の声に従者か侍女が駆け付けるべきですが、誰一人現れません。これは、我がグリード家の不手際です。名を連なる者として、お母様やアル義兄様がこの場にいない以上、私が代わり謝罪致します。…………カイン殿下?」
下げていた頭を上げると、殿下は私ではなく、私を通して後ろを見詰めていた。つられるように後ろを振り返る。お母様の体がわなわなと震えていた。
「…………お母様……」
いつの間にか、開けたままの扉の先にお母様が立っていた。執事も一緒だ。
「グリード公爵夫人。これを見てどう思う?」
強い怒りを無理矢理押し殺したような声で殿下は尋ねた。
「ウィル。これはどういうことです。何故、殿下やマリエールたちがこの部屋にいるのです?」
声が微かに震えている。
お母様、怒ってるの? もしかして、違う部屋を用意してた?
ウィルと呼ばれた執事が顔色を変え、「申し訳ありません。直ぐに事実確認を致します」と、答えると姿を消した。
お母様が部屋に入る。テーブルに目を向けた。途端に顔を歪める。そして、茶葉を確認した。そして、全てを悟った。
「マリエール。ごめんなさい。殿下も申し訳ありませんでした。直ぐに用意していた部屋に案内致します」
お母様は私たち二人に深々と頭を下げ謝罪した。
その気持ちは有り難かったけど、私は断った。この部屋で全然問題ないし。
「この部屋で十分なので構いませんわ、お母様。あの……疲れているので、少し横になりたいのですが宜しいですか」
部屋を移るよう言われたけど、正直しんどかったし、面倒くさかった。それに一応ここも客間だから、十分に休めるしね。だから、移動しなかったのは嫌味でもなんでもない。まぁ傍から見たら、そう取られるかもしれないけどね。侍女や従者にどう思われてても、痛くも痒くもないわ。
「……分かったわ」
お母様は何かを言いたそうにしていたけど、何も言わずにそう答えると部屋を出て行った。
お母様が出て行ってからも部屋に残る殿下を、私とサクヤは無言で見詰める。
「……分かった。ゆっくり、お休み。マリエール」
やがて根負けした殿下が渋々立つ。
「カイン殿下も」
部屋を出て行く殿下とインディー様を満面な笑みで見送ると、私はソファーで少しだけ仮眠をとることにした。やっぱり、渋いお茶だけじゃあ、この睡魔に勝てなかったみたい。
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