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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
真夜中のお散歩
しおりを挟むーー真夜中。
屋敷の住人が全員寝静まった頃。月明かりが室内を照らす部屋で、動く小さな影があった。
小さな影は手早く着替えると、ベッドの下から鞄を二つ取り出す。一つは腰に巻き、もう一つは斜め掛けに持つ。
勿論、その小さな影は私です。
そして窓を開けると下を見る。誰もいない。この時間、警備は違う場所を巡回しているからね。
二階だけど、この高さなら全然大丈夫。音を立てずに着地する。昔とった杵柄よね。暗闇に紛れて動く。誰にも気付かれずに、屋敷を取り囲む塀に到着した。直ぐに、ロープを引っ掛け外に出たいが、それは到底無理。そうした途端、侵入者を知らせる警報が鳴る仕組み。塀全体に仕掛けてるから、内側もなんだよね。毎日行き来してるのよ、気付くわ。
念の為に魔力を目に集めこの塀を見ると、やっぱり作動中だった。
つまり、塀に触れないように塀を超えなきゃいけないってこと。塀の高さは約三メーター。
身体強化の魔法を掛けても、ギリギリよね……ましてや、触れずに飛び越えるのは到底無理。なら、塀に掛けられている感知魔法を、正反対の性質の認識阻害の魔法で相殺出来れば、理論上は大丈夫な筈。悩んでる時間はないわ。
私は身体強化と認知阻害魔法を全身に掛ける。軽く助走し、塀を蹴り飛び越えた。警報は鳴らない。
よかった……
ホッと胸を撫で下ろす。だけど、ここでグズグズ出来ないわ。急いで離れないと。魔法を掛けたまま街の中を走り出した。
後は王都の門を潜れば外に出れる。
さすがに、王都の門を公爵家の塀と同じ訳にはいかないわ。でもね、王都の朝は早いの。陽が昇り掛けた時には開いているのよ。認識阻害の魔法を掛けたまま荷台に紛れれば、簡単に外に出れるわ。
その時間までに王都の門に辿り着かないと。日の出まで、後一時間弱。急がないと。私は走るスピードを上げた。
なんとか間に合ったわ。うんうん。あるね。開くのを待っている荷馬車が。決めた。あれにしよう。藁がいっぱい積んであるやつ。アレなら隠れやすいもの。そう決めた時だった。
「…………長いお散歩ですね。マリエール様」
直ぐ背後から声がした。
吃驚したけど、悲鳴は上げないわよ。
その代わり、瞬時に体が反応していた。体を反転させながら攻撃し、相手が避けるために体を反らした隙きに距離をとった。そして、ここで声を掛けてきた人物を知った。
「サクヤ!! ジーク!! どうしてここに!?」
静かな場所に似つかわしくない程の声。結構響いたわ。
「私も彼もマリエール様の護衛ですよ」
何言ってんだってばかりに、呆れているサクヤとジーク。まぁ、そうなんだけどね。
「さぁ。帰りましょうか? マリエール様。今なら、まだ気付かれないうちに帰れますよ」
ジークの台詞に私は首を横に振り拒否する。
「……帰るつもりはないわ」
「何、我儘を言っているんですか。帰りますよ」
ジークが近付こうとするが、それを止めたのは意外にもサクヤだった。ジークがサクヤを睨み付ける。
「行くつもりなんですね? そこにいるとは限らないでしょう」
何処とは聞かないあたり、さすがサクヤだわ。ジークを無視し、サクヤは淡々とした声で尋ねる。というより、確認かな。
「ええ。でも、必ず来るわ」
確信がある訳じゃない。でも私は言い切る。
「いつもは考えを巡らし、慎重に行動する貴女が勘で動くのですか?」
別に巡らしてる訳じゃぬいけどね。
「たまには、そういう事があってもいいでしょ」
不敵な笑みを浮かべる。だが直ぐに、その笑みは消えた。
えっ!? 今笑った?
私にとったら衝撃モノよ。サクヤの笑顔って。例えそれが一瞬でも。
「何驚いた表情をしているんです。……ほんと、困った人ですね。でも、不器用な貴女らしい」
「おい!?」
サクヤの台詞に慌てるジーク。サクヤはジークに向かって告げた。
「私の雇用元はグリード公爵家ではない。よって、従う義理もない」
まぁ確かにそうでしょうけど。見も蓋もないセリフよね。
「ーーだからといって、要護衛者を止めないのは、それはそれで問題だけどな」
更なる声が割って入ってきた。
「カイン殿下!!!!」
ちょっと待ってよ。それだけじゃない。その後ろには……マジか…………
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