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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
余程のことがない限り失われないもの
しおりを挟む「さぁ、答えて下さい。グリード様」
「…………金か?」
私に促されて漸く、渋々答えるオルガ様。私の顔から笑みは消えない。
お金ですか……まぁ無難な回答ですね。
「確かに、お金は大事ですよね。お金のある無しで生活環境は大きく変わりますから。……でも、無くなったらどうするのです?」
更に質問する。
「それは……」
オルガ様は言い淀んだ。
「家から持ち出しますか?」
そう尋ねると、途端に顔を真っ赤に染めるオルガ様に、私は更に笑みが深まる。
「馬鹿にするな!!!!」
家のお金に手を出すまでは落ちてないようで一安心だわ。まぁこのままいくと、まず間違いなく手出しそうだけどね。コロッと騙されそうだもの。持ち出せるか、持ち出せないかは別としてね。そんなことを考えながら答える。
「まぁ、それはともかく。私はお金などのなくなるものではないと思いますわ」と。
「…………だから、それがどうしたって言うんだ!!」
否定されたオルガ様は、苛々のせいで声を荒げる。
「私が知る限り、一度身に付けば、余程のことがない限り失わないモノ。それが最も大事なものだと考えてますの。
つまりそれは、知識ですわ。
知識は私を裏切ることは決してありません。ここにキチンと記憶してある限り」
そう言いながら、私は自分の頭を指でトントン叩く。
「……そもそも私は、グリード公爵家の養女にならなければ、二年後、出奔しようと考えていました。
冒険者になろうと思っていましたの。幸いなことに魔力もありますし、それなりに動けますからね。まぁ自己流ですけど。
十二の子供が一人で生きて行く。それは簡単なものではありませんわ。王都が平和とはいえ、子供を食うゲスな者もいるでしょう。貴族社会も弱肉強食ですが、平民の世界でも同じでしょう。
特に、後ろ盾も親もいない子供など、格好のカモでしょうね。それも無知なら尚更。
足元を見られ、最低限の買取しかしてくれないかもしれない。最低限の仕事料しかくれないかもしれない。それこそ、人買いに拐われ売られてしまうかもしれない。言い出したら切りがありませんわ。
子供だから、全てを回避することは難しいかもしれない。でも、最低限の知識があれば、防げるものもあります。反対に交渉も可能かもしれない。
だとしたら……知識は立派な武器になるとは思いませんか? グリード様」
その場にいる全員が呆気にとられ、私の話を黙って聞いている。さっきまで、怒鳴っていたオルガ様もだ。構わずに、私は続ける。
「一概に、知識を得ると言っても簡単ではありませんわ。私には教育をしてくれる教師はいなかったし。辛うじて、王妃教育を受けていましたが、残念ながらその教育は、国に関してのものに特化しています。それはそれで勉強になりますげどね。
さて、グリード様。教師がいない私でも、知識を得る方法が一つだけあるんですよ。
何だと思います?
正解は本ですよ。
屑でも公爵家、蔵書の数は多かった。私はそれを時間が有する限り読みあさり、知識を増やしていったのです。王家の図書室もよく通っていますよ。それに、時間があれば学園の図書室にも足を運んでいます。
これが、私がSクラスに合格出来た理由ですよ。ご理解頂けましたか?」
これ以上もない程、詳しく説明してあげた。
呆然と立ち尽くしているオルガ様が私を見る。その目を見て気付く。まだ、完全に心が折れていないことに。
まだ終わってませんね。でもここから先は、ユズに任せましょうか。当事者ですからね。
「アンナ。外で控えているクライシスに、ユズをここに連れて来るように告げなさい」
「畏まりました」
一礼しアンナが退室する。
ーー弱い者を容赦なく攻撃して、邪魔者はどんな手を使っても排除する。
そう言ったわよね、オルガ様。
なら、貴方が言った弱い者に直接訊くのが一番でしょ。
「あら? 何、牙の折れた犬のような表情をしているのですか? 自分が言い出したことですよ」
私は首を傾げ、オルガ様を更に追い詰めることにした。いい機会ですからね。二度とおかしなことを言い出さないようにしときましょ。
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