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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
ゴングが鳴りました
しおりを挟む視線のことは暗部さんたちに任せて、ケーキ屋さん巡りを皆で楽しんでると、見知った顔とひょっこり出くわした。
そちらも家族連れか。顔がよく似てるから、お兄様かな。さすがに父親じゃないでしょ。執事にも従者でも見えないし。もし父親だったら、お母様が何か言うよね。言わないところをみると、お兄様か……ほんと、会うのは教室だけにしてほしいわ。内心、大きな溜め息を吐いた。表情を変えなかった私を是非褒めてほしいわ。
それにしてもよ、こんな偶然ある?
最悪としか言えないわ。出くわすとしても、どうしてこのタイミングよ。
折角、お母様とアンナと一緒に、お喋りしながら美味しいケーキ堪能して気分がとても良かったのに。何で、よりにもよって、店内でこの人と出くわさなきゃいけないの。今更文句を言ってもどうにもならないけどね。
まぁ、相手も同じこと考えてるでしょうね。なんせ、大切な駒が一つなくなったばかりだからね。実際、眉間に皺が寄ってるし。
私とディア様の間に、現実では鳴らないゴングの音が鳴った。まず先制攻撃を仕掛けてきたのは、ディア様。
「誰かと思ったら、マリエール様ではありませんか。てっきり、どこかの町娘かと思いましたわ」
口元ではにっこりと微笑みながら、視線は頭の上からつま先までゆっくりと移動する。明らかに馬鹿にしているのが、丸わかりの視線だわ。確かにド平凡で、ディア様のような華はないけどね。
だけど、言われっぱなしの私じゃないわ。
「町娘に……ありがとうございます、ポーター様。変装が上手く出来たのですね。ポーター様を様もケーキを食べに来られたのですか? 美味しいですものね。ここのチョコレートケーキは」
嫌味を御礼の言葉で返してやった。家名付きでね。あれくらいの嫌味効くわけないでしょ。笑みを浮かべたまま応対してやる。すると、さも驚いた様子でディア様は言った。
「まぁ! ここのケーキが口にあったのですか!?」と。
それも結構大きな声でね。
はい。アウト頂きました。
ついでに、試合終了のゴングが鳴りました。勿論、勝ったのは私。
本人は嫌味を被せるつもりで言ったんだと思うけどね。使う言葉間違ってるわ。まぁ自業自得だよね。
でも、「不味い店」って、声高らかに言い放つのは、それこそ不味いんじゃないの。一応このお店は、貴族の方が結構利用してるって聞いたんだけどね。だから来たんじゃないの。まぁどっちでもいいけど。でも、周囲にいるお客さんから見たら、だったら何で来たのよって話になるよね。白けた目で見られてるのに気付かないの。だったら、完全アウトだよね。
「とても美味しかったですわ」
私は満面な笑みでそう答える。本当に美味しかったしね。
「……そう。それはよかったですわね。羨ましいですわ」
まだ言ってる。後には引けない感じ。だったら、仕掛けて来なかったらいいのに。馬鹿よね。まぁでも、少しは周囲の温度差に気付いたようね。ケーキ屋さんで絶対聞かないような、低い声音で返事が返ってきたから。
「では、私はこれで失礼しますわ」
そう答えると、私たちは店を出た。この後のディア様の顔を見れないのは至極残念だけどね。
それよりも気になるのは、ずっと黙ったままのお兄様の方。妹を咎める訳でもなく、反対に怒る訳でもない。まるで、観察しているような雰囲気だった。気にし過ぎかもしれないけど。
「……昔は、あそこまで残念な方ではなかったのに」
店を出た途端、お母様が呟くように言った。ということは、幼いディア様に会ったことがあるんですね。
複雑な表情のお母様とは違い、アンナはガッツポーズをしている。そんな対称的な二人の隣で、私は「そうですわね……」と答えた。私も幼いディア様を知ってるからね。
でも、その声は少し小さい。ディア様のお兄様の態度が何故か気になったからだ。
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