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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります

新たな屑

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「只今戻りました」

 護衛さんが戻って来たのは、王妃教育が終わって殿下とお茶を楽しんでいた時だった。相変わらず気配を感じさせないわね。

「ご苦労様」

 私は護衛さんを労う。

「ご苦労だった。で、どうだった?」

 殿下が早速尋ねる。

「この件に関しての主犯格は、ディア=ポーターでしょう」

 表情を変えずに護衛さんは答える。私は黙って二人の会話を聞いていた。

 おそらくね……

 護衛さんらしくない言い方だ。

 つまり、罪を問える証拠が見付からなかったってことね。限りなく黒に近いグレーってことか。……腐っても元王太妃候補者。かなり用心深く動いてたようね。まぁ、それもそうよね。私に何かあると一番に疑われるのはあの女ディア様だからね。そりゃあ、用心を重ねるわ。言動はお花畑だけどね。

「そうか……」

 殿下もそう簡単にいかないと分かっていたようだけど、どこか悔しそうだ。私は少し楽しいけどね。だって、そう簡単に潰したら面白くないでしょ。

 あの女の手足をゆっくりと、一個一個確実に潰さないとね。あの女の苛立ちが、糞女神の苛立ちに繋がるからね。それも、何倍もの強さで。アレクの執着心が強ければ強い程酷いと思うわ。楽しいっていう気持ち分かるでしょ。

「実行犯はご存知の通り、ユズ=ブラウン。元男爵令嬢です。それを命じたのが、アーティ伯爵令嬢です」

 やっぱりね。ここまでは想像通りだよ。

「証拠はあるのか?」

「はい。魔法具で記録しております」

「今、見れるか?」

「大丈夫です」

 そう答えると、護衛さんは魔法具を器用に操作した。途端に映し出される映像。

 アーティ伯爵令嬢がユズ=ブラウンに激しく詰め寄るシーンが鮮明に記録されていた。完全にアウトだ。これだけで罪が問えるよ。決定的な証拠ってやつね。

 胸糞悪い映像は二十分ぐらい続いた。

 その映像の中で、アーティ伯爵令嬢がユズさんを激しく殴打しているシーンもあった。何度も。

 幸いと言っていいのか分からないけど、私は激しく殴打されたことはない。だけど、それ以上のことをされ続けた。いつ死ぬか分からない状況だった。

 脳裏に過るのは屑親たちとの生活ーー

「…………殿下。私決めましたわ。ユズ=ブラウンを私の侍女にしますわ」

 低く固い声で宣言する。

 私と同じ目に合ってる娘がいる。私にとって十分な理由だった。

 反対されても譲るつもりはないわ。絶対、ユズさんを侍女にしてみせる。あのアーティ伯爵令嬢から助け出す。私が皆に助けられたように。

「マリエールならそう言うと思ったよ」

 殿下は苦笑しながらも賛成してくれた。

「だとしたら、まずはユズ嬢の妹と弟を救い出さないといけませんね」

 ずっと黙っていたインデー様が口を開く。

 そう……彼女は無理矢理やらされていたのだ。家族を人質に取られて。最も卑怯且つ有効なやり方だよ。反吐が出る。

 この映像を見て疑問が解けたよ。

 階段に蝋を塗る彼女はかなり酷い顔をしていたからね。罪悪感で押し潰されそうな、今にも自死しそうな程だった。何でそんな表情をしてたのか。そして、そんな嫌なことを何故断らずにしたのか、ずっと疑問に感じていた。その理由が分かったよ。

 同時に新たな疑問が生まれた。

 もしかしたら、私とお父様をを攻撃する実行犯にする目的で、アーティ伯爵はユズさんを入学させたのか? ってことだ。

 もしそうなら、彼は娘以上の屑だ。

 嫌、違う。屑の親の背中を見て屑の娘が生まれたんだから、アーティ伯爵が娘以上の屑なのは当たり前だよね。




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