今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります

昼休み

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 お楽しみのランチの時間。

 仕掛けていた魔法具にはっきりと一人の女子学生が、蝋を階段に塗っているのが映し出されていた。その女子学生とは別に、踊り場にいるもう一人の女子学生の姿。その姿は途中で切れていて、残念なことに誰かまでは判別出来なかった。

 だけど、塗っている方はバッチリと顔が映ってた。そこから十分に手繰れる。

 顔が映っているから、当然すぐに誰か判明した。けど、学園長から呼び出しを受けている様子はない。泳がせてるようね。

「ブラウン家? 聞かない名前ですね。貴族にそのような名前の方いましたか?」

 食後の紅茶を飲みながら尋ねる。貴族の名前はある程度覚えていたけど、ブラウン家は聞いたことがなかった。新しく爵位をもらった家かな?

「知らなくて当然ですよ。マリエール様。その男爵家は二年前に爵位を陛下に返上されましたから」

 教えてくれたのはインデー様でした。

 ということは、今は平民ですか。元貴族とはいえ、平民がこの学園に? 高等部ならまだ分かるけど……

「返上?」

「借金を換算するためです」

「貴族籍を売ったのね。でも、その年は不作の年ではありませんでしたよね」

 確かその年は豊作の年だった筈。

「ええ。その通りです。先物取引で失敗したんですよ」

「つまり、不作を予想して小麦を大量に買い付けたということですか?」

 男爵家が銀とか金の先物取引が出来るだけの経済力があるとは思えないから、たぶん穀物あたりでしょ。

「そうです。馬鹿ですよね」

 インデー様も中々毒舌よね。

「親が馬鹿なのは理解出来ましたが、そもそも、平民の彼女がどうしてこの学園に? 第一、授業料が払えますの?」

 貴族なら払える額でも、平民となるとかなり厳しいんじゃない? 余程の商家じゃない限り。まぁ、彼女が商家の令嬢とは考えられないわね。余程、お金に余裕がない限り先物取引なんてしないわよ。

「普通なら払えないな」

 代わりに答えたのは殿下だった。

「なら、貴族の誰かが彼女を推薦したのです?」

 貴族の推薦と学費があれば入学は出来るわね。試験さえ合格出来ればだけど。でも……そこまでする必要がある? 普通考えればないわね。でも、現にしてもらってるから優秀な筈よね。だって、問題を起こせば推薦してくれた貴族に多大な迷惑が掛かるじゃない。下手したら、その場で断罪されてもおかしくないわ。

 なのに、彼女は階段に蝋を塗った。もしかして……

「…………もしかして……推薦した貴族に頼まれたから? その貴族って、アーティ伯爵」

 私の口から出てきた固有名詞に、殿下とインデー様は驚く。

「どうして、そう思った?」

「私がクラスに入った時、明らかに動揺してましたし、撒き餌にも引っ掛かりましたから。……それに、彼女はディア様の取り巻きの一人ですから」

 動機はディア様のためか……私には考えられないけどね。

「そうか……」

 殿下とインデー様も何か考えている様子だ。

「まだ、はっきりと断定していませんわ。でも答えは、もう間もなく判明すると思いますわ」

 そう……間もなく、護衛さんが答えを持ってくるわ。





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