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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
美味しそうなだけじゃ駄目よね
しおりを挟む「マリエール!!!!」
だから連呼しないで。そう言おうとした矢先だった。目の前に突如殿下が現れた。昔とった杵柄か。反射的に身を翻そうとした瞬間、思いっ切り力強く殿下に抱き締められていた。
「カイン殿下、ここ「大丈夫か!? 痛いところはないか!? 今すぐ医者に診てもらわないと」
私の言葉を遮り、一人焦り出す殿下。
いやいや。医者って……落ちてもないし転けてもないのに。必要ないでしょ。このままだと、無理矢理王宮に直帰する勢いだよ。そして、保護と名の監禁に突入しかねない。マジ勘弁してよ。
「少しは落ち着け」
「痛っ!!」
学園長が殿下の後頭部を軽く叩くと引き離してくれた。殿下はまだ暴れている。
「大丈夫かい? マリエール嬢」
「はい。学園長」
私がそう答えると、明らかにホッとする学園長。だがすぐに厳しい表情になる。
「ならよかった。でも、これは笑えないな」
「全くですわ。明らかに殺意を感じます。やはり、狙われたのは私ですね」
認めたくはないが、十中八九そうでしょうね。
「マリエール嬢。今日はこのまま家に帰りなさい。後はこちらで調べるから」
当然帰るよう学園長から促されたけど、このまま帰るつもりなんて更々ないわ。なので、きっぱりと断った。
「いえ。帰るつもりはありません。このまま授業を受けに行きますわ」と。
今からだと遅刻かもしれませんか。
その台詞に驚いたのは、私以外その場にいる全員だった。
「帰りなさい。君は命を狙われている可能性が高い。犯人が見付かるまで休みなさい」
教育者としてはそう言って当たり前よね。でもね……どう言われても帰るつもりはないわ。
ここからは少し突っ込んだ話をするつもり。なので、周囲に人がいないか神経を張り巡らす。人の気配は感じない。
うん。いないね。
ほんとは防音魔法を展開したいけど、皆の前で展開する訳にはいかないから、手早く話をつけよう。
「いいえ。帰りませんわ」
そうはっきりと伝えた後、私は殿下の方に視線を向けた。
「殿下。殿下のことだから、仕掛けそうな場所に色々罠を仕掛けているのではありませんか? 犯人が特定されても、所詮はトカゲの尻尾切りになると思いますよ」
貴族の令嬢や子息が床を這いつくばるとは到底思えない。考えられない。なら、やらせた奴がいる筈でしょ。やらせた奴ももしかしたら命じられたかもしれないしね……ここは炙り出すのが得策じゃない。そのためには、私がこのまま授業を受けた方がいい。
「だとしても……」
やはり、学園長はなかなか許可をくれない。
「ならばこう致しましょう。護衛さん。貴女、全身に認識阻害魔法を掛けれますか?」
私は護衛さんの方を向くと尋ねた。
「出来ますが」
「なら、授業を受けている間も、私の護衛をお願い出来ますか。そして授業が終わった後は、Aクラスを監視してもらえる? ……私を狙ったとしたら、その犯人に繋がる者がAクラスにいる可能性は高いわ。もし私が無事なら、そろそろ痺れを切らす頃ではないかしら?」
護衛さんを含め全員が私を見る。
「自ら囮になると?」
そう尋ねたのは護衛さんだった。
「それが一番手っ取り早く、且つ、一番正確なのではないかしら。いいでしょ。カイン殿下」
護衛さんは王家に属しているもの。殿下の許可が下りないと無理。学園長は王家から離れた身だから影を動かす権利はない。この中で動かせるのは殿下だけ。
「何、馬鹿なことを!!」
学園長は当然怒った。そうでしょうね。
だけど殿下は黙り込み、私をジッと見詰める。その力強い視線から目を逸らさずに、私は殿下を見詰め返す。
「…………分かった。その作戦でいこう」
小さい声だが、はっきりと殿下は告げた。それでこそ殿下だわ。
「カイン!!」
学園長は殿下を咎めるが、殿下はそれを流し私から視線を外さない。護衛さんは小さく頷く。
作戦は決まった。
さて、炙り出すとしましょうか。
「はい。では、行って来ますね」
そう笑みを浮かべながら答えると、手摺に片手を添え気を付けて下りた。
私は囮。餌だ。美味しそうに見せないと魚は食らいついてくれないわ。
「……美味しそうなだけじゃ駄目よね。生きがいいようにみせないとね」
楽しそうに呟く独り言を護衛さんは黙って聞いていた。
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