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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
悪意ある噂
しおりを挟む殿下には大丈夫って言ったけど、まるで檻の中に入れられた見世物小屋の動物のようね、私。それも可愛い系じゃなくて珍獣系、下手したら猛獣系か。
Aクラスに入った途端そう思ったよ。冗談じゃなく、本当に自分の周りに鉄格子があるのが見えた程だもの。心底、Sクラスに入れてよかったわ。
さすがに一年間ずっと、午前中から夕方まで見世物小屋の動物状態は精神ヤラれるんじゃない。まぁ、まだ見られるだけなら平気だけど、実際はそうじゃないからね。
檻の外から私を見ているAクラスの生徒たち。
彼らは数人集まって噂話に花を咲かせている。男女とも。その中で、やはりディア様の影響は大きいようね。それは教室に入ってすぐに気付いた。だって、ディア様が声を発する度に、皆一瞬だけど彼女に意識が向くの。
それってつまり、ディア様がこのクラスで一番力を持ってることになるでしょ。王族の次に位の高い方だからね。当然と言えば当然よね。私も公爵家だけど、新参者と古参者となると、やっぱり違うでしょ。どんなにグリード家の方が全てにおいて秀でていてもね。
先生が来るまでの間、私はAクラスをつぶさに観察していた。敵の観察は必須だからね。これ、本当に大事だよ。ジーと見るのはさすがにバレるので、本に目をやりながら周囲に神経を張り巡らせていた。
早速、私の悪口が聞こえてきた。
『十歳がSクラスだって!? 俺の弟なんて何回も落ちてるのに、あり得ないだろ。絶対、何か不正してるんだぜ』
一人がそう言い出すと、周囲の男子学生が便乗し同意している。
それって、あの控室の? 控室であんなに騒いでたら落ちるわ。いくら面接が上手くいってもね。それに、筆記用具は学園側が用意したものよ。どうやって不正出来るのよ。出来るんなら、こっちが訊きたいくらいよ。
『そもそもさぁ、あいつ、親に虐待されてたんだろ? そんな奴が、普通ここまで勉強出来るのっておかしくないか?』
ここまでならまだ許せた。奴って言われてもね。そう言われるのは予想してたから。でも、それから先はさすがに許せなかった。
『確かにな。だったら、親を罠に嵌めたのか。グリード公爵と一緒に。俺の親も似たようなこと言ってたぜ』
『グリード公爵って、元庶子だろ。あり得るんじゃねーか』
私のことはどう言われても構わない。それなりに覚悟出来てるからね。私の悪口だけなら口を挟まないと決めていた。でもね、お父様のことを言うのは許せない。
『それが本当なら、怖い女だよな』
『『『だな』』』
聞こえてないと思って好き勝手言っている。
切りがいいところで、わざと少しガタッと音を立て立ち上がる。
途端に水を打ったようにシーンと静かになる教室。皆私を見ている。
集まる視線を無視し、男子の方を向くと私は尋ねた。微笑みながらね。
「それはどういう意味かしら?」と。
途端に焦りだす男子たち。聞こえてたとは思ってなかったようね。普通は聞こえないわよ。
でも私は知っている。魔力の使い方によっては、体の機能を強化させることが可能だってね。強化魔法を使うことなくね。私は血液のように体中に流れる魔力を、少し耳と目に多めに流しただけ。
「尋ねているのです。答えてはくれないのですか?」
微笑みを絶やすことなく再度尋ねる。
「「「「…………」」」」
男子学生は無言のまま。視線は完全に泳いでいる。ならば、私は少し突っ込んであげるわ。これで少しは答えやすくなるといいけど。
「面白いことを話していらっしゃったわね。確か……元公爵はお父様と私に嵌められたとか……違いましたか?」
みるみる顔色が悪くなる男子学生たち。言い訳したくても、しどろもどろで何も言い返せない。言い返せないのなら、始めからそんなこと言うんじゃないわよ。
「マリエール様。お怒りは分かりますが、そこまでにして頂けないでしょうか」
やっぱり介入してきたわ。慈悲深いのを装うつもりね。
「これはおかしなことを。私はただ尋ねているだけですよ。怒鳴ってもいませんし、声を荒げてもいませんよ。ただ知りたいのです。どうしてそう考えられたのかを」
ならば、こちらも受けてたつわよ。
「ただの噂話ですわ」
噂話で全てを終わらせようとしてるのは明らかね。
「確かにそうでしょうね。でもさすがに、公爵家だけでなく、王家を貶めるような発言はお止めになった方が宜しいですよ」
今度はざわつき出す。
「そんな大袈裟な……」
大袈裟? この女何言ってんの? 貴女も王太子妃候補の一人だったんじゃないの? 馬鹿になったの? 昔の貴女はそうじゃなかったのに。貴女の背後で私を睨み付けている取り巻きの女生徒と同じレベルに落ちたようね。それとも、屑女神に感化されたとか。
「大袈裟ではありませんわ。お父様が公爵家に召し上げられたのも、元公爵の貴族籍を剥奪したのも国王陛下ですよ。つまり、王家の決定ですわ。だとしたら、そこにいらっしゃる方々は、国王陛下の決定に異議を申したことになりませんか?」
さぁ、返答は如何に。これでも、大袈裟だと言うの?
だけど残念なことに、返答は聞けなかった。このタイミングで先生が入って来たからだ。
「そこまでだ。皆、席に着け。グリード嬢もポーター嬢もだ」
明らかにホッとしたような表情で席に着く男子学生たち。ディア様は表面上は慈悲深い微笑みを浮かべながら席に着く。だけど一瞬だけ目が合った時、彼女はその表情とは全く違う目で私を睨み付けた。
私はその視線を目を逸らさず受け取る。笑みを浮かべたまま。そして私も大人しく席に着いた。
それから先は、何事もなく授業が始まる。
ほんと、タイミングよすぎるわ。絶対廊下で聞いてたわね。教科書を広げながら思う。
それよりも問題なのは、男子学生が言った台詞よね。
ーー虐待されてたのに、何で勉強が出来るんだ?
その疑問が解消されない限り、燻り続けるでしょうね。でも今更、馬鹿な振りは出来ないししたくない。そっちの方がデメリット高いし無理があるわ。
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