今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります

穴があったら入りたい

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 まるで、ディア様の視線から私を遠ざけるように、殿下は私の手を掴み歩いている。

 いつもより強く握られた手。そして、目の前にある殿下の背中を見て、私は唐突に理解した。

 殿下がディア様の好意が幼馴染を超えたものだと、かなり前から気付いていたことは知っていた。実際、避けていると言っていたし。

 何年か振りに会った、殿下とディア様。視線を交わすことも話すこともなかった。

 殿下にしてみれば、諦めてくれたらよかったのに。そう期待していたでしょうね。だけど実際は違った。今でもその思いが続いていることを、殿下は敏感に感じ取った。そして私も。そのことに気付いたと思う。あの一瞬で。

 殿下は何も言わない。だから私も敢えて訊いたりはしない。だって、殿下が愛してるのは私だもん。

「……カイン殿下。またさぼったのですか?」

 そう尋ねると、殿下の歩みが遅くなった。

「悪いか?」

「悪いでしょ。また、学園長に怒られますよ」

 そう微笑みながら答えると、殿下は微妙な何とも言えない表情で私を見詰める。

「……何も聞かないのか?」

「訊いて欲しいのですか? それに訊かれて困るのはカイン殿下の方でしょう。何て答えるつもりだったんですか?」

「…………それは……」

 ちょっと意地悪だったかな。

「カイン殿下はディア様に関しては、誠実な態度で断りをいれたのでしょう。なら、私から何も言うことはありませんわ。違いまして」

 ディア様のあの目ーー

 私には黒い炎をやどしているように見えた。実際に炎を見たわけじゃないけど、確かにそう見えたの。

 殿下を心から慕い、私を排除、いや隙あれば殺そうと考えている目だった。そういう感情には人一番敏感だからね。だとしたら……

 私が糞女神なら、間違いなくその感情を利用する。ゲスな考えと分かってるけどね。彼女の周りにいた女生徒にも注意しなきゃいけないわね。

「マリエール。俺にはお前だけだ。昔も今も」

 甘くて重い告白の割に、殿下の瞳は自信なさげで揺れている。本来の彼ならこんな目はしなかった筈。常に俺様で力で解決しようとしていた。その方法しか知らなかった。まぁ……そのために生まれた存在だから仕方ないけど。

 夢の中でゼリアス様も言っていたけど、この頃特に曖昧になってきているよね。うまい具合に融合してるんだったら、大丈夫だろうけど……やっぱり、少し心配になる。でも素直じゃないから、吐いて出る言葉は憎まれ口。

「殿下。私は違うかもしれませんよ。そのうち逃げ出すかもしれません。だから、その時は追い掛けて来て下さい。殿下との追い掛けっこは意外と楽しいんです」

 素直に嬉しいなんて到底言えない。可愛げがないって分かってるけど無理なものは無理。ほんと、自分が嫌になる。

「ああ。いくらでも追い掛けてやる。そして必ず捕まえる。俺の隣にはマリエールしかいらないからな」

 殿下はニヤリと笑う。

 私もですよ。

「私はすばしっこいですよ」

「ああ。よく知ってる」

「ですよね」

 思わず声を出して笑ってしまった。殿下も一緒に笑う。ひとしきり笑った後、改めて殿下は私に手を差し出す。

「行こうか」

「はい」

 勿論私はその手をしっかりと掴んだ。




 掴んだ時だった。

 パンパン。

 手を打つ音がした。

「はい。終わりましたか。では急ぎましょう。殿下、マリエール様」

 インディー様です。

 いつからいたんですか!? もしかして見られてたの!! 

 私は慌てて殿下から手を離すと、反射的に座り込んでしまった。穴があったら入りたいって、このことを言うのだと身に沁みて知ったよ。

「チッ。いいところだったのに、邪魔するな」

 殿下は舌打ちするとインディー様を睨み付ける。

「邪魔されたくなかったら、さっさと教室に来て下さいよ。来ない殿下たちが悪いんですよ。マリエール様も、恥ずかしいのは分かりますが、ここは外だということをお忘れなく。……ほんとに、バカップルが」

 外の言葉に反応して周りを見渡せば、数人生徒が私たちを見ていた。その中にはアンナとジークの姿が……

 私は声にならない悲鳴を上げたのはいうまでもない。

 で、インディー様、一番最後何て言ったの?

 

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