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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
一歩を踏み外した者(料理人視点)
しおりを挟む公爵家が取り潰された……何行ってるんだ、コイツら。
ああ、そうか。またあのクソガキがまた懲りずに悪戯でもしやがったのか。ほんと、悪趣味にも程がある。血を分けた妹なのに。俺も子供がいるが、もし自分の子があのクソガキだったと思うと、マジ虫唾が走る。
だけど、すぐにその考えは間違いだと分かった。悪戯ではなく、本当に取り潰されたのだ。追い打ちを掛けるように、自分たちが仕えていたのは、愛人とその子供だと告げられた。二人とも俺と同じ平民だったのだ。
それだけでもショックだった。
俺だけじゃない。皆も俺と同じように呆然としていた。
更に悪夢は続く。
一方的に解雇を告げられ、そのまま寒空に放り出された。
次の仕事場の斡旋もなければ紹介状もない。子供騙しのお金だけ渡されて。
まだ俺はマシな方だろう。この腕があるからな。まぁ最悪、親父の店を手伝えばいい。そう単純に考えていた。
寒空の中、いつまでもボーと突っ立って風邪引くのも嫌なので、家に戻ることにした。どう言い訳しよう。家に帰るまでそんなことばかり考えていた。結局何も思い浮かばないまま家の前に来ると、すぐに異変に気付いた。
窓ガラスが何枚も割られていた。小さな庭は荒らされ、妻が息子たちと一緒に造った花壇も荒らされている。
「なっ、何だこれは!? ジュリア!! サム!!」
妻と息子を心配して家に飛び込む。室内は真っ暗だった。慌てて明かりをつけ、家の中を見渡す。どこにも、妻と息子の姿はなかった。
代わりにテーブルの上に置かれていたのは、離婚届と二通の手紙だった。
一通はグリード公爵様からの手紙。もう一通は、妻からの手紙だった。
妻からの手紙を開封する。
そこに書かれていたのは、もう俺とはやっていけないと書いてあった。俺のような人間とは一緒にいたくないとも書いてあった。
どういう意味だ……? 何なんだこれは!? 俺が何をした?
突然のことで、俺は混乱しかなかった。それでも何とか俺は頭を働かす。
ジュリアは肉親がもういない。なら、行く場所は一つしかない。俺はテーブルの上に置いていた離婚届と、グリード公爵家からの手紙を鷲掴みにすると家を飛び出した。
この日は深夜まで開いてる筈の店が閉まっていた。そして、ここでも窓ガラスが割れている。中に飛び込むと、そこには食い散らかした食べ物の残骸。乱闘騒ぎが起きたかのような酷い状態だった。
「なっ、何だこれ……親父!! 母さん!!」
「……何しに来たんだい?」
俺が叫ぶと、母さんが奥から出て来た。その表情は無表情に近く目も死んでいた。
「それより、これは一体「お前のせいでしょ」
「なっ、何言ってるだよ、母さん。それより聞いてくれよ、ジュリアとサムが「出て行ったのかい?」
「やっぱり、ここにいるんだな!! ジュリア! サム!」
俺は妻と息子の名前を呼んだ。だが誰も出て来ない。
「ここにはいないよ。いるわけないでしょ」
母さんは静かに答える。
いるわけない……?
「どういう意味だよ?」
「一緒に暮らせる訳ないでしょ。お前のような人の皮を被った悪魔とは」
「…………何を言ってるんだ? 俺が悪魔?」
全身の血の気が引いていく。
「あんな小さな子供に、あんな酷い真似が出来る奴が、悪魔じゃなかったら何だい? 料理人のくせに、家畜でも食べないような食事や、毒草、異物混入を混ぜた食事を平気で子供に出す。そんなの料理人でもなんでもない。それに、子供が頑張ってこしらえた薪を持っていくなんて、お前は人の血を持たない悪魔だよ」
なっ……何で母さんが知ってる!? もしかして、ジュリアも知ってるのか!? まさか、手紙か!!
「ちっ、違うんだ!! あれは!!」
俺は慌てて言い訳をしようとした。だけど、母さんは許してくれなかった。
「今更、どう取り繕っても無駄だよ。皆知ってるよ。流れたからね。王宮で流れたものが、王都にも流された。お前が笑いながらしたことは、王都の人間全員が知ってるよ」
そう言えば、あのムカつく奴が何か言っていたのを思い出す。
「じゃあ、この惨状は……」
「映像を見たお客さんたちが暴れたからに決まってるでしょ」
なら、俺の家も……
「私たちはどこで間違ったのかね……まさか、私の息子が悪魔だったなんて」
そう……ブツブツと呟きながら、ゆらりゆらりと近付いてくる。その右手には光る物が握られていた。その包丁は赤いもので汚れていた。何故気付かなかった。生臭い臭いに。親父は?
俺は反射的に悲鳴を上げ、その場から腰を抜かしながら何とか逃げ出した。
逃げ出す場所なんて、もう何処にもないのに…………
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