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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
次の敵は糞女神です
しおりを挟む胸ぐらを掴んだままの私の背に、殿下の両手が回り込む。そしてそのまま抱き寄せた。
耳元に殿下の息を感じる。
「………………マリエール。俺と一緒に戦ってくれるか?」
長い沈黙の末、殿下は弱々しい声で訊いてきた。
私が断ると思っているのか。私の答えは始めから決まってるっていうのに。
「戦うに決まってるでしょ。今度は糞女神が相手か……」
次から次へと。ほんと、休む暇もない。まぁ、今回の敵は最大級のラスボスだけどね。
「…………君は強いな」
そう呟くと、殿下は私の肩に顔を埋める。肩口が濡れてるのは、私の気のせいよね。私は殿下の背中に手を回す。
強いのは、アレク、貴方の方よ。貴方は私が知らない所で、ずっと戦い続けていたんでしょ。ありがとう、アレク。
「……で、勝算はあるのよね?」
そう尋ねたら、殿下の不機嫌そうな声が返ってきた。
「この雰囲気で、それ言うか?」
おい。何を期待してるの。
「いやいや、私まだ十歳。子供」
「だから?」
慌てて手を離そうとしたら、反対に抱き締められた。
「だからじゃない。離して!」
「嫌」
「嫌って!! 離して!!」
「嫌。…………温かい。生きてる」
アレク……
そう呟き、震えている人間を突き放すことなんて出来ない。出来る訳ないじゃない。
そうよね。アレクが私を抱き締める時は殺す時。
いつも、冷たくなっていく私の体を抱き締めていたんだ……そう思うと、体の力がフッと抜けた。
力を込めて抱き締める、殿下。震える背中に、私は何も言わず手を添えた。
私は貴方を許すわ……
口には絶対出さないけどね。
貴方も苦しんで来たことを知ったから。本当は殺したくないって知ったから。私を殺すのは、何か深い理由があるって知ったから。
「ごめんね、アレク。二人っきりになった時、私は貴方を怖がってしまって」
「……いいんだ。怖がられて仕方ないことをしてきたんだから」
「で、もう一度訊くけど、勝算あるの?」
「…………全く、ムードも何もないな」
「子供にムードを求めるな」
「昔からだろ」
酷っ。それどういう意味よ。私がムードも何も分からない残念さんだとでもいうの。
「そんなお前だから安心する」
久し振りに裏からじゃなく、正面切って出できたアレクは、体を離し頬に触れてきた。本人は普通に微笑んでいるつもりだけど、黒く感じるのは私の気のせいかな。まぁ、いいか。
「三度は言わないわよ」
そう告げると、ニヤリとアレクは笑った。
「勝算はある。俺たちが出会う時期と、思い出す時期も、今回はかなり早いだろ」
「確かにそうね。どうして?」
「簡単に言えば、信仰心だ。俺に呪いを掛けた糞女神は、昔は国教だったろ。でも今は違う。神って奴らは、信仰心によって力の差が出るらしいぞ」
ふ~~ん。なるほどね。
「やけに詳しいわね」
「まあな。色々疑問があるだろうが、それを含めて後日でもいいか」
まぁ確かに、夜も更けてるし、詳しい話は後日がいいかもね。でも、
「逃げないよね」
一応、確認とっとかないと。
「もう逃げねーよ」
「ならいいわ。だけど、二点だけ教えて」
これだけは訊いておきたかった。どうしても。
「分かった」
「この呪いはアレクに掛けられたものよね。なら、何で私の転生が続くの?」
「それは、あの糞女神の告白を断ったからだ。あの糞女神、勝手に俺に加護を与えやがって、ましてや、死んだら私の元にずーといるのよって、ぬかしやがった。俺には愛した女がいるから断ったら、散々現世で邪魔しやがって、死んだら魂を繋ぎ止めようとしたんだ。俺はマリエールを愛していたから断り続けた。そしたらあの糞女神、俺に呪いを掛けやがった!!」
ちょっと、待って。
「じゃあ、そもそも心中する原因になったのは、その糞女神が邪魔したからってこと?」
「ああ」
ほ~~そんなんだ。ふ~~ん。ぶちのめす。絶対、タコ殴りにしてギタギタにしてやる。
「で、その呪いって、私を殺すことだったの?」
そう尋ねると、アレクは頷いた。
悪趣味にも程がある。やり方が汚すぎる。神だからって許されてると思ってるのなら、そんな神なんかいらない。
「つまり、アレクが拒否し、絶望して、自分から糞女神の元にこさせようとしたわけね」
「ああ。でも、俺が受け入れても、あの糞女神はマリエールを消し去る。必ずな。だから、俺が手を掛けることにしたんだ。そうすれば、マリエールの魂は輪廻転生の輪に入れる。俺もな」
なるほどね。よく分かったわ。私がアレクに殺されなければ、魂そのものが消えてしまう。だから、アレクは私を殺し続けたのね。
糞女神。
待っていなさい。絶対に、この手で地獄を見せてやる。今回が無理なら、来世で。来世が無理なら、再来世で。
人間の怖さを骨の髄まで思い知らせてあげるわ。必ずね。
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