今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
48 / 354
第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

最後の面会

しおりを挟む


 月明かりの中、私は地下牢へと向かう。道は知らないが、屑の僅かな魔力を辿れば簡単だ。

 屑一家と接触出来るのは今晩しかない。明日刑が執行されると、そのまま屑一家は炭坑へと送られるからね。

 気配を消し、地下牢に向かう途中で足を止める。建物の影に誰かが隠れていた。

「最後だ。恨み言を一杯言ってやれ」

 声と同時に姿を現す。

 やっぱり、殿下だったわね。思わず溜息が漏れる。

「別に、私からアイツらに言うことはないわよ」

「ほんとに?」

 憎たらしい奴。分かっていて訊いてくるんだから。

「……本当は言い足りない。でも、言いだしたらきりがないからね。恨み言を繰り返し言っても、後で虚しくなるだけでしょ」

「そうだな」

「で、付いてくるの?」

 訊かなくても答えは分かってるけど。

「別に構わないだろ」

 ぼらね。

「仕方ないわね」

 そう答えると、目を見開く殿下。何故、驚く?

「拒否しても付いてくるでしょ。ほら、行くわよ」

 そう言うと、殿下アレクは嬉しそうに微笑んだ。

 今回のアレクは私を殺そうとはしない。それは、もう一人のアレクが表に出て来てないから? でも、偶に見え隠れする、もう一人のアレクの存在。

 私が気付いてないと思うーー

 口には出せない。でも、私が気付いていることに、たぶんアレクは気付いてる。

 お互い、何も言わないけどね。

 でも……少しだけ、ほんの少しだけだけど、この距離感が心地良いって思ってるのは、絶対に内緒。これだけは気付かれないようにしないとね。

「殿下!! それに、マリエール様。このような夜更けに、このような場所に。今すぐお戻りを」

 まさかの正面突破ですか。ほら、断われるに決まってるでしょ。

「明日になれば、マリエールは元親に会えなくなる。その前に、マリエールの気持ちを、あの毒親に聞かせてやりたいのだ。頼む」

 そう告げると、殿下は深々と騎士に頭を下げた。私も一緒に頭を下げる。

「お願い致します。どうしても訊きたいことがあるのです。確かめたいことがあるのです。我儘だと理解しております。それでも、どうか、叶えて下さいませんか」

 殿下とその婚約者に頭を下げられ、困り果ててる騎士を攻め続けます。もうちょっと、そう思った時でした。

「構わん通して差し上げろ」

 私と殿下の後方から男性の声がしました。後ろを振り返ると、第一騎士団長様だった。

 まさに鶴の一声です。

「分かりました。騎士団長がそう仰るのなら」

 どうやら、騎士団長様のおかげで中に入れそうです。

「一緒に来なくてもいいんだぞ」

 螺旋階段を降りながら殿下が文句を言う。

「そういう訳にも行かないでしょう」

 騎士団長様は苦笑いをしながら答える。

 まぁ、そうよね。でも殿下は、まだブチブチと口の中で文句を言っている。助けてもらったのが余程気にくわないようね。そりゃあそうでしょ。殿下と言えども、十三歳の子供を素直に通すわけないじゃない。

 螺旋階段を降りきると、騎士団長様は足を止めた。後ろを振り返り、私を見下ろす。

「マリエール様。宜しいですか。ここに収容されている者たちは、重犯罪を犯した者ばかりです。正直、子供には見せたくない程酷い場所です。本当に面会なさるのですか?」

 騎士団長様の確認に、私は静かに頷く。

「ありがとうございます、騎士団長様。そのお気持ちは嬉しいですわ。しかし、どうしても会わなければなりませんの」

 そう答えると、騎士団長様は深々と溜息を吐いた。そして、

「分かりました」

 許可してくれた。すると、殿下がボソッと呟く。

「俺には訊かないんだな?」

「訊く必要ないでしょう。私が止めて聞くような方ですか?」

 確かにそうよね。殿下は素直に人の話を聞くタイプじゃない。一癖も二癖もありそうだけど、根はとても純粋だ。一見、そう見えないけどね。

 余程、騎士団長様のことを気に入ってるのね。

「マリエール。何笑ってる」

「笑ってませんよ」

「いや、笑ってた!」

 今は、そんなことどうでもいいんです。

「では、行きましょうか。騎士団長様」

「分かりました。では、扉を開けましょう。くれぐれも、通路の真ん中を歩いて下さい。宜しいですね」

 私と殿下は頷く。

 扉が開いた。

 何とも言えない異臭がする。埃と垢と汚物が入り混じった悪臭だ。換気はしてるみたいだけど、完全に追いついていない。

 でも、私にとって、これくらいの匂いなら我慢出来る範囲。まぁそれでも、ハンカチで口元を覆うけどね。

 コツコツコツ。

 響く三つの足音。

 屑一家の皆様。今からそっちに行くわ。起きて待っててね。

 貴方たちのために用意したプレゼントがあるの。

 騎士団長様が一番奥の牢屋の前で足を止めた。

 隅の方に蹲っている黒い塊が見えた。

「ラング。貴様に面会だ」

 騎士団長様の呼び掛けに、力なく顔を上げる屑。

「三日会わないうちに、大分お変わりになりましたね、元公爵様」

 私は満面な笑みを浮かべ、初めて屑と向かい合った。



しおりを挟む
感想 326

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

処理中です...