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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

王印

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「元義母じゃない……? それはどういう意味なのでしょうか? 王妃様」

 虚偽の申告をしていることは聞いてはいたが、当然、ここでは知らないふりをする。私も中々の役者よね。

 周囲も、王妃様の台詞にざわめき立つ。

 まさかの展開だもの。私の虐待で終わるって皆思ってたよね。でも、ここからが本番なんだよね、実は。

「彼女と公爵の婚姻は国に受理されていないの。つまり、そこにいる女は、ただの平民よ。因みに、そこにいる平民の子供も認知されていないわ」

 えっ、ソフィアも。じゃあ、ソフィアは平民だったの!? だとしたら、そもそも殿下との婚約なんてあり得ないじゃない。

 それに、散々私にしてきたことも、完全に不敬罪を問える内容になるよね。家族じゃないんだから。嘘を吐いて公爵、いえ伯爵令嬢である私を貶めたのだから。まぁ、相手は九歳の子供だし、さすがに不敬罪は問えないと思うけどね。だけど、それなりの罰は下るわね。

「ただの平民……? なら、公爵様は平民の愛人を本宅に住まわせ「そんな訳ないでしょ!!!!」

 私の言葉を遮る平民。

「私は公爵夫人よ!!!! 変な言い掛かりは止めてくれない。やり方が陰険すぎるわ!!」

 それは誰に向かって言ってるの? まさか、王妃様じゃないよね。不敬罪では済まないわよ。この瞬間、首チョンパもあり得るのに。現に、王妃様の後ろに控えている騎士の手が柄に掛かってるわよ。ほんと、怖い者知らずだわ。糞女で無知か……最凶の取り合わせよね。

「陰険? 誰に向かって言っているのです」

 分かりながら尋ねるあたり、さすが王妃様だ。

「貴女よ!! 昔のことを根に持って、こんな意地悪を仕掛けてくるなんて、根暗過ぎるわ」

 まんまと嵌る糞女。どんどん罪を重ねてる。このままいけば、最悪処刑か、犯罪奴隷か、どちらかね。

 糞女が言ってた昔のことって、もしかして学院時代のこと? なら、被害者は王妃様の方よね。

 それにしても、よく言うわ。このパーティーの出席者の中で、糞女の学院時代を知る者が何人いると思ってるの。

「根暗過ぎるね……昔も一度、同じことを言われたわね。貴女は昔と変わりはしない。いえ、マリエールの件も含め、悪化したと言った方がいいわね。王妃である私が、自分の私意を優先したと言いたいのかしら。残念ながら、貴女の意には添えそうはないわね」

 苦笑しながら告げた王妃様。

 そう告げた後、屑一家の前に用意していた書類を二通見せた。婚姻届だ。

 あれ? 屑が小刻みに震えだした。私が気付くくらいだもの。王妃様も気付いているよね。

「一枚はマリアと交わした婚姻届。もう一枚は貴女との婚姻届。違いが分かるかしら?」

 王妃様は複写を何枚かしていた。その一枚を見せて貰う。残りは出席者たちに。

 確か……王妃様は王印が違うって言ってたよね。見てみると明らかだった。これに気付かない人っていないんじゃない? それ程、全然違う。簡単に説明すれば、簡素化されたのとそうでないモノ。まさにそれだ。

「王族の血が入っている公爵、及び侯爵と、侯爵以下に捺される王印は違うものを使用するの。つまり、貴女たちの婚姻届には侯爵以下の王印が使用されている。当然、この婚姻届は無効になるわね」

 まぁ、当然そうなるわね。

「そ……そんな、嘘よ!!!! そっち側のミスじゃない!! 無効の無効よ!!!!」

 糞女はわなわなと震え、婚姻届をグジャグシャに握り潰した。

「それは、ないわ。侯爵以上の王印を捺せる者はただ一人。その御方がこんな初歩的なミスをする訳ないでしょ。保管もしっかりしているわ。簡易的なモノと違ってね」

「だったら、その人がミスしたのよ!!」

 この糞女、どこまで愚かなの。王妃様は敢えて含みを持たすような言い方をしたけど、侯爵家以上の婚姻届の王印を捺せるのは、陛下しかいないじゃない。

「ほぉ~~では、私が間違ったというのか」

 陛下が答えた。

 すると焦ったのか、糞女は必死で言い繕う。

「そのようなことは言っておりません、陛下。人は勘違いをすることもあります」と。

 何、この上から目線。

 平民がこの国の頂点に対してのこの発言。信じられないわ。学生時代からこうだったの? 最悪だわ。

「……昔から変わらぬな。その害悪しかない思考は、もはや不愉快でしかない。公爵よ。このような平民をよくも平然とこの場に連れて来たものだ。そうそう。王印のことだが文官なら誰でも知っている筈だが。なら、誰が略式の王印を捺したのだろうな……」

「誰でしょうね……」

 陛下と王妃の射殺す程の視線に晒された屑は、耐え切れず、小さな声で絞り出すように自供した。

「…………私が捺しました」と。

 ガクリと肩を落とす屑と糞女。ソフィアは訳が分からない顔をしている。

 あまりにも呆気ない終わりに、私は少しだけ拍子抜けした。




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