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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
不穏な芽
しおりを挟むそう……まだ、始まってさえもいないのよ。本当の地獄はね。
それは、今から始まる映像を見終わっても同じ。
この場はね、屑一家の罪を皆に周知にするための場。
本当の地獄は、この場を出てから始まるのよ。
皆が戻り、陛下の声で次の映像が流れ始めた。
今度の映像は前のものより刺激的なものを用意した。といっても、私にとってはそれ程じゃないけどね。皆に見せたモノと一緒。それプラス、私の日記を朗読した音声付き。
流れ始めた途端、息を飲み。進むにつれ、倒れる者も出て来た。本来なら、倒れる者が出た時点で映像を止める筈。
だが、陛下は止めなかった。王妃も止めない。勿論、殿下もだ。
王家はこれを期に公爵家そのものを、完全に、徹底的に潰すつもりだと、パーティーの参加者たちは理解した筈。
虐待の件を除いても酷すぎたからね。
自分は選ばれた存在だと勘違いし、何をしても許されると思っている屑。だから、欲しいもののために、平気で弱者から搾取を繰り返してきた。
そして、学院の癖が抜け切れなくて、屑と婚姻を交わしてからも、良い男がいればフラフラとすり寄って行く糞女。
その二人に育てられた元愚妹は、自分のために世界が存在し、全ての人が自分の味方だと思っている勘違いさん。
私を別にして、屑一家の被害を被った人は数えればきりがない。自殺に追い込まれた人もいると噂で聞いたわ。勿論、お母様の死後の話だけど。
お母様という枷がなくなった屑一家は、この三年間でかなりの恨みをかってる筈。今周囲にいる貴族たちは、屑一家を生ゴミを見るような目で見ているけど、内心大笑いしている人も絶対いるわね。
彼らの不平不満の声は、個人では小さい。だけど、集まれば無視出来なくなる。王家の信用に直結する程に大きくなる場合も出てくるでしょうね。
だから、王家は不穏な芽を刈り取った。私の件を利用してね。私的には全然構わないけど。さすがの私も、全部が全部善意とは思わないわ。却って、その方がいい。
それにしても、人間の顔って、あんなにも色を変えることが出来るのね。
赤、青、白。
次々と変わる顔色。
顔色が変わるごとに、私を見る目が、憤りから、畏怖するものへと徐々に変わってきている。
そりゃあそうよね。
十歳の子供が殺意を抱くことも驚きだけど、それを表に出すことなく、虎視眈々と復讐する機会を狙ってたんだものね。何年も。それも、散々平凡だと馬鹿にしていた子供がね。
その子供が、王家と一緒に牙をむいたんだもの、怖いよね。でもね。それは自分が蒔いた種だもの、仕方ないわよね。
どう弁解しても不可能だと悟った屑は、蒼白な顔色のまま頭を垂れ、その場に力なく座り込む。お父様が殴ったところは紫だけどね。
糞女はキョロキョロしている。関係を持った男性に助けを求めてるみたいね。ソフィアも私を睨み付けてるし、この状態でも貴女たちは変らないのね。まぁ、いいけどね。
「……公爵様。お母様が貴方に何をしたのです」
私は屑に静かに語り掛けた。屑の視線が私に向く。
「政略結婚とはいえ、お母様は貴方の妻であった筈。なのに、病気に倒れた時も見舞いに来ず、最後の時も愛人の家にいた。私は貴方に戻って来るよう使いを出しましたよね。でも、帰っては来なかった。そして、葬式でさえ参列しなかった。公爵夫人でありながら、公爵家からは誰一人参列しなかった。お母様の実家である伯爵家も、形だけの参列で十分足らずで帰ってしまった。最後まで参列し、お母様を見送ってくれたのは、王妃様とお父様だけ」
一度、ここで言葉を切る。そして、改めて口を開いた。
「公爵様にとって、お母様との婚姻は意にそわないものだったのでしょう。なら、何故婚姻したのです? 婚姻しないと、公爵になれなかったからですか? とことんお母様を利用し、目的が果たせたらぽいっと捨てるのですか?」
「…………悪くない。俺は悪くない」
一瞬聞き間違いかと思った。この後に及んで、まだその言葉が出てくるなんて。
「貴方は人を何だと思っているんです!! 生きている時に散々お母様を虐げ、死して尚も、お母様をそこにいる女と一緒に虐げた。……目を疑ったわ。まさか月命日の日に、酔っ払って愛人と一緒に来るなんて。ましてや、義母になるなんて考えもしなかったわ。……貴方が最低限でも夫としての役割を演じていたら、私はここまでしなかったでしょうね。全ては自分で招いたことよ。素直に非を認めなさい」
言いたいことは言ってやった。でも、正直、屑が非を認めるとはこれっぽっちも思ってはいない。
ここからは、王妃様のターン。
「マリエール。辛かったわね。でももう大丈夫。私たちが付いていますわ。……だけど、一つだけ間違っていますわ」
ずっと長い間、沈黙を護っていた王妃様が口を開いた。
「彼女は貴方の義母ではありませんよ」と。
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