今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

逃げ道は塞がれた

「なっ！！　いくら王族といえども、言っていいことと悪いことがある！！」

　屑が殿下に食って掛かる。あの視線にもろに晒されても、ものが言えるとは少し驚きですわ。まぁ、かなり抑えてるけどね。

「この私が嘘を言っていると？」

「嘘でなければ勘違いです。私共はマリエールを虐げたことなど一度もありません。反対に「反対に？」

　最後まで言わさない。殿下は途中で遮った。

　この後に及んでも、屑は私を悪にしたてたいようね。出来るわけないのに。だってついさっき、感情にまかせて手を上げようとしたでしょ。それとも、マジでそう思ってるの。まさか、それはないよね。さすがに。

　殿下はそのまま続ける。

「意義があるなら、陛下と王妃に直接言えばよかろう。何なら、私が特別に場を設けるよう、陛下と王妃に嘆願してやろう、公爵。その娘も連れてくればいい。この場で私に釈明するよりは、よほどましではないか」

　そこまで言われて、否は言えないわね。断れば、虐待を認めたことになるもの。

　完全に殿下は屑一家の逃げ道を塞いだ。ほんと腹黒いやりかたよね。でも、一番効果的な誘導の仕方だわ。

　これで、屑一家は夜の部に参加決定となった。

　ソフィアの具合が悪いから欠席するっていう手も使えない。勿論本人もね。

「分かりました。陛下と王妃様の前で間違いを正しましょう」

　屑の台詞に思わず笑みが溢れる。淑女の教育を受けてても我慢出来そうにない。ほんと、扇を持っててよかったよ。

　それにしても、やけにきっぱりと屑は断言してくれたわね。そして未だ、呆然と地面に直接座り込むソフィアと糞女を無理矢理立たせると、屑はその場を後にした。勿論、私と殿下を睨み付けながらね。呼び止める声なんてないわよ。代わりに、冷笑に見送られたわ。

　場違いな屑一家がいなくなり、途端に和やかになるパーティー会場。

　殿下が口を開く。

「私のせいで、場が白けてしまった。心から詫びる。その詫びとして、新作の菓子を用意した。存分に食べてくれ」と。

　その声を合図に新作の菓子がテーブルいっぱいに並ぶ。黄色い歓声が上がった。

　子供たちと奥様。そして極一部の男性には天国の光景よね。勿論私も。

「食べたいのがあれば取って来よう」

　目を輝かす私に殿下が声を掛けてきた。

「いえ。自分で取りますのでご心配なく」

　殿下に取って来てもらうなんて滅相もない。色んな意味で怖い。

「遠慮するな。ほら、焼き菓子だ。これ好きだろ？」

　断ったのに差し出されたら、今回は受け取るしかないよね。仲が悪いと思われたら、計画にさしつかえるからね。あくまで、計画のためよ。好意があると勘違いしないでよね。

「ありがとうございます。殿下」

　渋々、差し出された皿を受け取った。

「マリエールに喜んでもらえると嬉しいな」

　蕩けるような笑みを浮かべる殿下。

　そんな顔をされると、却って食べ辛いわ。でも食べる。食べ物に罪はないからね。

　そんな私と殿下の様子を遠巻きに見ている参加者たち。特に大人たちだけど。小声で噂している。

「殿下。助けて頂き感謝しますわ」

　余計な言葉はいらない。これだけで殿下には十分伝わるから。

「マリエールの敵は俺の敵だからな」

　どこからか、黄色い歓声が上がった。お菓子とは別の。