今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

殿下の出番ですよ

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 場が最高潮に温まった所で、殿下の登場。

 これも打ち合わせ通り。ここまで上手くいってる。上手く行き過ぎてるくらいね。

 ソフィアが殿下に駆け寄ろうとした。それを従者と騎士が止める。

 近寄れないソフィアは後ろを振り返り何故か私を睨み付けた。だが、すぐに殿下に向きなおり訴え始めた。

「カイン様~~。お姉様がまた意地悪言うんです。カイン様に嫌われてるって。そんなことないのに。このドレスもカイン様がくれたものなのに。それに、お母様が病気でも帰って来ないし、ほんと酷いと思いませんか? 私はこんなにもお姉様のことを大切に思っているのに」

 おいおい。どの口がそれを言ってるのよ。それに、いつの間にか呼び方がお姉様に戻ってるし。

 元お姉様、マリエール、あんたにお姉様か……いやはや、呆れるわ。

「本当に酷いな」

 殿下は眉を顰め答える。

「カイン様もそう思いますよね」

 殿下の返答に、私を振り返り勝ち誇った顔をするソフィア。

 周囲にいた観客高位貴族は、完全に引いてしまっている。さぞかし、汚物を見るような目でソフィアを見ていることでしょうね。

 しかし、私の表情が変わらないのを見てソフィアは顔を歪める。そんな表情をしているソフィアに、殿下の声が降り掛かる。

「酷いのはお前だ。マリエールではない」

「…………え……?」

 殿下の言葉に固まるソフィア。屑も糞女も見事に固まった。

「聞こえなかったのか? 酷いのはソフィア、お前の頭だ。……まさか、そのドレスを着てくるとは思わなかったな。貴族なら、そのドレスの意味を理解している筈だが。どうやら、特殊な考えをお持ちの公爵家の方々には伝わらなかったようだ。私の配慮不足だな。すまぬ」

「殿下が謝る必要はありませんわ。このような特殊な例は予想がつきませんもの」

「優しいな。マリエールは」

 そう告げると、殿下は私の側へと歩み寄り、手を取ると口付けた。反射的に手を払って甲を拭いたいんだけど出来ない。終わったら、絶対拭う。

「何を言ってるのですか!? 笑えない冗談は止めて頂きたい。殿下は、ソフィアが婚約者にとお考えだから、その色のドレスを贈られたのでしょう」

 屑が眉を顰め不愉快そうに告げる。その後をソフィアが続く。

「…………何を言ってるの? だって、これは殿下がくれたものよ。殿下とお揃いじゃない。分かったわ!! カイン様は優しいから、お姉様を気遣ってそう言ってるのね」

 この親子、マジ何言ってるの? 頭に虫が湧いてるんじゃない。

「…………ここまで酷いとは思わなかったな」

 私も同感です。

「お前が着ている深紫こきむらさき色のドレスは王家の者しか着れぬ色だ。婚約者でも着ることは許されない。つまり、それを贈る意味はこうだ。『お前がいるパーティーなど出たくない。虫唾が走る。来るな』だ。分かったか」

 心底嫌そうな顔をする殿下。なまじ美形なだけに、凄まじい破壊力があるわ。

 そもそも、王家しか着れない色のドレスを着てくるなんて、その場で不敬罪で投獄されても仕方ないし、最悪、その場で毒杯を賜ることもある。普通の神経なら着て出席するなんてあり得ない。

 つまり、深紫のドレスを贈るってことは、最上級の侮蔑なんだよ。

 頭ごなしに拒否されて、呆然と座り込むソフィア。そのソフィアに寄り添う糞女。そして殿下ではなく、私を殺さんばかりに睨み付ける屑。

「行こうか、マリエール」

 殿下が私を連れて場を離れようとした時だった。

「殿下はソフィアの心を弄んだのですか!? その女に頼まれて!!」

 屑が吠えた。

「貴様!!!!」

 お父様が屑の衿首を締め上げた。屑の顔が赤黒くなる。

 そのまま締め上げたら、間違いなく落ちるわね。そんな退場は許せない。でも、怒ってくれたことは嬉しかった。

 私はお父様の上着を軽く引っ張り言う。

「お止め下さい、お父様。お父様の手が汚れますわ」

 お父様の手が衿首から離れる。ドサッと音がし、屑が座り込んだ。激しく咳き込む。

「…………その女か……自分の血を分けた子供に言う台詞ではないな。弄んだ? 誰が誰をだ。冗談でも虫唾が走る。……私がソフィアに必要以上に近付いたのは、お前たちの目をマリエールから背けるためだ。お前たちがマリエールを虐待しているのを知ったからな。だから、私は敢えてマリエールに冷たく当たった。その裏で、王妃様と陛下に相談し、保護してくれるよう頼んだのだ。そうそう、お前がお金を積んで取り込んだ元従者は、既に投獄済みだ。いいか。私が愛しているのは、常に側にいて欲しいのは、マリエールしかいない。断じて、ソフィアではない!!」

 そう言い放った殿下の目は、とても冷たく、底知れぬ怒りに満ちていた。


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