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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

ドレスの色

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 パーティー三日前。

 いつもと同じ様に王妃教育を終え休憩をとっていたら、殿下が大きな箱を持って現れた。

「マリエール。これを三日後のパーティーに着て欲しいんだ」

 この箱にはドレスが入ってたのね。

「……私のためにですか?」

 思わず訊いてしまう。

「勿論だよ。君以外にドレスを贈ったりしない」

 そう断言されてもね……

「ソフィアに贈ったのでは? 本人から嬉しそうに自慢されましたが?」

 わざわざ離れに来て嬉しそうに自慢してたわ。上から目線で。それを思い出しながら尋ねると、殿下はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

 黒っ! 何か企んでいそうね。

「あれは別物だ。面白い趣向を凝らしてある。普通なら、見た途端気付くけどな。でも、自慢したってことは……当日、面白いことになりそうだぞ」

 私が楽しめるような面白い趣向ですか?

「それは、とても楽しみですね」

 にっこりと微笑み返します。すると殿下は、

「さぁ、マリエール」
 
 話は終わりとばかりに、ドレスを見るよう促す。 

 殿下からとはいえ、ドレスをもらうのは嬉しい。ちょっと、ワクワクするよ。箱を開け、薄い紙を除けると、出てきたのは薄緑色の可愛らしいドレスだった。

 薄緑色って……

 思わず、手が止まったよ。

 だって、薄緑色って……殿下の瞳の色よね。それを今、この年から贈りますか……贈るとしても、五年は早いわ。それでも、早いっていわれるんじゃない? 生温かい目で見られるわ。普通は八年後の学園の卒業パーティーの時に付けるものよ。それを知らない殿下じゃない。知ってて贈ってる。

 マジ引くわ。どんなに取り繕ってもアレクだわ。悪い意味で期待を裏切らない。

 プラス。装飾品も控えめで小さいモノだけど、最高級のエメラルドだった。

「……私にこれを着ろと?」

 自然と声が低くなった。

「気に入らなかったか?」

「ドレスの型は気に入りましたわ。気にいらないのは、ドレスの色です」

「どこが? 似合うと思うが」

「分かってて言っているあたり、底意地の悪さを感じます」

「でも、これが一番の解決方だろ?」

 まぁ確かに、半信半疑の貴族たちに分からせるためには、実際に見せる方が早いけど。

「色んな理由をつけて、これを着せたいんですね」

 溜息混じりに答える。

「ああ。マリエールには僕の色を常に身に纏って欲しい」

 それ、十三歳の台詞じゃないわ……







 三日後ーー。

 昼から始まるパーティーは子供のためのもの。とはいえ、親がいないわけじゃない。あくまで子供が主役なだけだ。

 このパーティーは高位の貴族の子供が集まる。参加出来るのは伯爵家以上。

 子供とはいえ、ここは貴族の縮図。いわば顔見せに近い。こういう場が切っ掛けで、婚約を交わしたりするのが、貴族の常識だった。

 既に、伯爵家と侯爵家は入場済み。後は公爵家と王家が入場するだけだ。

 なので、私も既に入場していた。でも私が、元公爵令嬢だと知る者は多い。

 いくら殿下の婚約者とはいえ、新しいお父様は伯爵家だからね。だが、その功績を認められて、実質は公爵家と同じ地位を得ていた。だから、後から入場してもおかしくはない。だけど、こちら側で屑一家を出迎える方が演出的にはいいでしょ。まぁ、お父様のことを貴族内で知らない者はいないし。子供までそうかと言えば疑問だけどね。

 特にソフィアは……

 心の中でニンマリと嗤う。

 いくら伯爵家でも、私は殿下の婚約者。殿下から贈られたドレスを着ている。勿論、装飾品も。

 さて、ソフィア。貴女はどんな道化を演じてくれるのか楽しみだわ。

 でもね……これはあくまで、前菜だから。前菜。メインは夜。

 その時だ。

 ソフィアが屑と糞女と一緒に入場して来た。

 その瞬間、周囲がざわつく。そして、ヒソヒソと小声で話し始めた。中には、眉を顰める者もいる。その反応は、常識のある貴族なら当然の反応だった。

 当たり前よね。ソフィアが着ているドレス。その色が問題だった。

 なるほど。殿下、そういうことですか。グッジョブですわ。


 
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