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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
私は黒い笑みを浮かべる
しおりを挟む「マリエールがお茶に誘ってくれるなんて夢のようだよ」
蕩けるような甘い笑顔を浮かべながら、殿下が話し掛けてくる。
特に避けてた訳じゃないけど、二人っきりで会うことはあれ以来なかったわね。殿下は形ばかりの謹慎処分の真っ最中だし。まぁ今もだけど。
改めて思うけど、昔から、アレクって顔だけはよかったのよね……性格はアレだけど。外面がいいから、皆コロッと騙されて。凄くモテてたわね。老若男女に。人外にも。
昔の私は、この男を心から愛していた。何度も何度も殺されながらもね。会いたくないと思いながらも、心のどこかでは会えたことを喜んでいた。さすがに、殺されることを喜んだりはしないけどね。
憎しみと愛情って、近い感情だって身に沁みて知ったよ。
でも今の私には、不思議とその気持ちはないんだよね。両方とも。麻痺してしまったのか、生まれ変わる時に忘れてしまったのか分かんないけど。まぁ、刺された時の恐怖はまざまざと残ってるけどね。
正直なところ、今の私にとって殿下は警戒すべき存在、天敵でしかない。
だけど、それとこれとは別の話。
「ちゃんと、御礼を申し上げていなかったので。気付いて頂き、救われました。心から感謝致します」
殿下から座るよう促されても座らずに、私は頭を下げ礼を述べた。
殿下がアレクでも、彼のおかげで、公爵家を私の手で追い込むことが出来た。きっかけを作ってくれたのは、目の前にいる殿下だ。
「マリエールは変わらないな。昔からそうだ。敵でもいけ好かない相手でも、助けられたら素直に礼を言うことが出来る。俺には到底無理だが」
殿下は眩しそうに私を見詰めている。
そんな目で見られると、何かこそばゆくなる。
「マリエール。座って。俺は君に確かめたいことがあるんだ」
言われるまま座る。タイミングよく、カップに紅茶が注がれる。
「確かめたいことですか?」
「ああ。本当にこれでよかったのか? 自分の手でやりたかったんじゃないのか?」
殺りたかったって、聞こえるのは私だけかな。どっちにせよ、答えは否だ。私は軽く首を左右に振った。
「勘違いしないで頂きたいのですが、やるのは簡単ですわ。でも、子供の手で出来ることは限られていますの、殿下。少なくとも、彼らを犯罪者として断罪することは、私一人では出来ませんでしたわ」
実は、出て行く時に呪いを掛けてやろうと考えてた。ジワリジワリと精神も肉体も病んでいく呪いをね。昔とった杵柄だ。とびきりのやつをあげようと考えていた。
でもそれじゃあ、お母様のことも、私の虐待や殺人未遂も、表に出ることはない。闇に葬られたままになる。
そして、屑一家は公爵として最後を終える。権力を持ち得ない私には、どうすることも出来なかった。悔しくてもね。
だけど、殿下が介入してくれたおかげで、全てが明るみに出すことが出来た。結果、屑一家は犯罪者として公爵家をおわれることになる。貴族さえなくなるのよ。
あの屑たちにとっての唯一の鎧を、皆の前でゆっくりと剥いであげる。
ジワリジワリと病んでいく呪いはいつでも掛けることが出来るわ。だけどその前に、その身を徹底的に地を這わし、十分に絶望を与えてあげないとね。
「なら、これでよかったんだな?」
おそらく殿下は、いやアレクは全て分かった上で、一応確認するように問うているだけだ。
「ええ。これで良かったんです」
私はにっこりと微笑みながら答える。殿下には、その黒さが伝わっているでしょ。
「そうか」
だって、殿下の笑みも、私に負けないくらい物凄く黒かったからね。
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