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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
マリエールのいない所で(宰相視点)
しおりを挟む撮られた映像が、カーテンを閉めた薄暗い室内で映し出される。これはマリエール嬢目線で撮られたものだ。
この映像を見ているのは、王妃様と国王陛下、それに宰相である自分と第一騎士団長と魔術師師団長。そして、マリエール嬢の新しい父親のジェラルドの六人。特別に証言者として、マリエール嬢付きの侍女アンナと同行した騎士も同席している。
皆、食い入るように映像を見ていた。目を背ける者はいない。
始めから酷かった。門番がマリエール嬢に剣を向け、疫病神と罵ったことに、さすがの私も唖然とした。
そして、公爵と愛人。その娘の理不尽な言葉の攻撃。それを追撃するのは、あろうことか執事と侍女たちだった。
さっきの門番といい……狂っている。
この視聴会に参加した殆どの者が拳を強く握り締め、中には、唇を強く噛んでいる者もいた。そうしないと冷静さを保てないからだ。
「…………あの小さな体で、耐えてきたというの……」
全てを見終えた後、王妃様が言葉を吐き出す。懺悔にも近い言葉だった。私も同感だ。あまりにも、自分は愚かだった。
確かに、暗部からの報告は聞いてはいた。報告内容はこの映像と然程変わりない。だが正直、疑問視していた。マリエール嬢に同情して少し大袈裟に言っていると考えていたからだ。
暗部からの報告が事実なら、間違いなくマリエール嬢は体も心も病んでいる筈だ。しかし、王妃教育に来るマリエール嬢はどこも病んでるようには見えない。
そんな勝手な思い込みのせいで、発見が遅れた。
王太子殿下が異変に気付き、敢えて愚かな行動をとってくれたおかげで露見した。王太子殿下が行動しなければ、この虐待は続き、最悪な結果を生み出すことになっていただろう。
「日記帳には何と書いてある?」
厳しい表情のまま陛下が尋ねる。
「淡々とその日に何が起きたか記してあります」
「例えば?」
私は目に付いたものを読み上げる。
「今日は王妃教育の日。珍しく、具が入ったスープが運ばれてきた。腹下しの薬草が入ったスープだ。サンドイッチの中には青虫の幼虫入り。毒入り、異物混入。ありすぎて数えるのも面倒になってきた。鑑定のスキルがあって本当によかった。なかったら、間違いなく死んでいた」
声に出し読んでいて、胸糞悪くなる内容だった。
「今日は王妃教育でマナー実習だった。それも、立食パーティー。これで数日は生きられる」
王妃様と侍女が声を押し殺し涙する。
「今日はソフィアが殿下から貰った髪飾りを自慢しに来た。面倒くさいので相手にしない。すると、癇癪を起こし一枚しかない皿を割って行った」
「今日は部屋の中に珍客がいた。アオダイショウだ。怖い。蛇は苦手なのに。早く出て行って。穴を塞ぎたいけど、穴が空いてる箇所が多過ぎて分からない。まだいるのかもしれないと考えると眠れない」
パラパラと捲っていると、最近のもので、ひときわ長いものがあった。
「段々寒くなってきた。折角、冬を越すためにコツコツと薪を作っていたのに、王妃教育から帰って来たら全部回収されていた。本宅用らしい。彼らはどうしても、私に死んでほしいようだ。お母様を殺し、葬儀にも参列せず、一か月後には再婚。お母様の墓に二人酔っ払って来た時は、殺意が湧いた。絶対に許しはしない。だから、絶対死んでやるものか。どんなに地を這っても、雑草を口にしても、生き続けてやる。だけど薪がないのは辛い。今から少しづつ作っても、冬が越せるだろか。それに、新年パーティーのドレスをどうにかしないと。どんなにみすぼらしくても、矜持までは捨て去りはしない。絶対に」
読んでいて声が震える。
これを十歳の子供が書いたのか……
「…………もうよい」
陛下が止めた。その声はとても小さく、震えていた。
そして、悪魔のような形相で今にも飛び出そうとしているジェラルドを、必死で騎士団長が止めていた。
「我慢しろ!! グリード伯爵。今、出て行ったら、ここまで我慢していたマリエール嬢の苦労が全て無駄になるぞ!!」
「だが!!!!」
「そっかぁ~~。ジェラルドはマリエールちゃんが必死で保ち続けてきた矜持を、その足で踏みにじるんだ~~。それって、屑親と同じだね。さすが、兄弟。でもね、そんなのこの僕が許さないよ」
師団長の台詞に、ジェラルドはやっと静かになった。本当に容赦ない。可哀相に。ジェラルドは完全に力が抜け放心状態だ。
「騎士団長と師団長の言う通りだ。我慢しろ、グリード伯爵。……ここで私からの提案だが、この日記も一緒に流したらどうだ?」
陛下の提案に、我々一同賛同した。
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