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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

皆さんと一緒です

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 騎士数名とお父様、それとジークとアンナと一緒に屋敷に戻って来ました。前触れもなしに。

 私は相変わらずお父様に抱っこされています。危ないからだと言われたら断れないよね。

 門番が騒いでますが当然無視です。剣を抜きましたが、騎士にむね打ちをされて、膝まづいています。悔しそうに睨んでますね。勿論、私を。

 そんな門番を、お父様は冷たい目で一瞥した。

「主に向かって剣を抜くとはな」
 
 迫力満点ですね。

「……主? その疫病神がか!?」

 いつもと同じ反応に、私は特に何にも思わない。昔は色々思うこともあったけどね。

「だから言ったではありませんか、気持ちいいものではないと」

 お父様は辛そうに眉を顰めている。無言のままで。

 ああそうそう、例の魔法具は作動してます。つまり、このやり取りもバッチリ撮れています。バッチリとね。

 そのまま遠慮なく屋敷内を歩いて行く。

 すると、すぐに屑と糞女が出て来た。

「お前はジェラルド!! 何でお前が王都に!? それにマリエールを連れて」

 屑が怒鳴っている。まるで小型犬が、狼に向かってキャンキャン吠えてるようね。

「王妃様に呼ばれてな。マリエールは俺の娘になった。今日は荷物を取りに来ただけだ」

「マリエールがお前の娘だと!? そんな勝手が許されると思っているのか!!!!」

 今更何言ってるの、この屑は。あ~~そうか、私を変態に高値で売ろうとしてたのに、出来なくなったから認めないのね。

 お父様も変態のことは知っている。なので、屑たちを見るその目は人一人殺せそうな程鋭いです。

「虐待していて、今更何を言ってるんだ? 文句があるなら、陛下と王妃様に言うんだな」

 好き勝手にほざいている屑にお父様はそう言い捨てると、私に問い掛ける。私の部屋が本宅にないことを知っていながらね。お父様も中々の役者ですよね。

「マリエールの部屋は?」

 その目は屑たちを見る目とは全く違って、とても優しいものだった。上辺の優しさじゃなくて、心から滲み出てくる優しさだ。

「お父様……私の部屋はここにはありませんわ」

 少し沈んだ声で答えます。

「公爵令嬢の長子なのにか?」

「ええ。彼らの中で、私は家族ではありませんから」

「そうか……辛かったな。これからは俺たちが護ってやるからな。頑張ったな、マリエール」

 その言葉は私の胸にじんわりと染み込んでいく。

「ありがとうございます。お父様」

 そんな私たちのやり取りを見て、また屑が怒鳴り散らしている。今度は糞女も参戦してきた。あろうことか、執事と侍女も参戦する。

 もう何を言ってるか聞き取れない程だ。

 いちいち返事をするのも面倒だし、したくもないので、ここは皆スルー。先を急ぐことにした。勿論、この会話も映像もきちんと撮れてます。きちんとね。

「…………ここまでとはな」

 う~~ん。ショックを受けているようね。これは伝えておいた方がいいかも。

「いえいえ、これはまだ序の口ですよ。前菜の一口にすぎませんわ。メインディッシュもまだですし。それに、デザートもまだですよ」

 そう教えてあげると、お父様は更に眉を顰めた。お父様だけじゃない。この場にいる全員、同じような表情をしている。

 まぁ、それだけ、屑たちが酷かったから仕方ないんだけどね。

 それにしても、つくづく不思議に思うわ。あの一族の中で、こんなにまともな人がいるなんて。血よりも育ちが重要なんだって、心底思ったよ。

「お父様。庭に出た方が早いですわ」

 私たちは庭に向かう。

 庭には庭師とその息子がいた。庭師は何も言わず脇に寄る。だが、息子は違った。

「マリエール!! お前、またソフィア様を虐めたんだってな!! 昔はそうな奴じゃなかっただろ!! 一緒に謝ってやるから意地を張るなよ」

 お母様がいた時から仲良くしていた。私にとって、幼馴染のような存在だった。そう、もう過去形。何年も一緒に遊んで、私の苦しみも分かっていたのに、あっさりとソフィアと糞女に絆された。その瞬間、私との絆は完全に切れた。

 庭師が馬鹿なことをほざく息子を殴った。そして、そのまま膝を付き額を地面に擦り付け、謝り続ける。

 この人はこの中で唯一まともだった。その分、色々辛い思いをしたと思う。自分と息子を護るために、見て見ぬふりをし続けても、私は彼を恨みはしない。

「おろして下さい、お父様」

 お父様は素直に下ろしてくれた。私は庭師の前に立ち、彼の肩に手を添えた。

「私は貴方を許します」

 そう告げると、庭師の体がビクッと震えた。

 私はそのまま離れに向かう。その背に向かって懲りずに叫ぶ、元幼馴染。私は振り返ると、前に告げた言葉を繰り返した。

「もう二度と、私に話し掛けるなと以前言いましたね。もう一度繰り返します。二度と私に話し掛けないで」

 お父様に負けない程の冷たい目で見据えると、呆然とする元幼馴染を放って、私は今度こそ邪魔されずに離れに向かった。


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