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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
二つ目の毒花(公爵視点)
しおりを挟む「お帰りなさいませ、貴方。今日は早いのね。ソフィアは?」
愛しい、愛しい愛妻、フィリアが微笑みながら出迎えてくれる。その笑みに何度心を救われたことか。フィリアが、愛娘の姿が見えなくて、表情を曇らしている。心が痛む。でも、告げなくては。
「ソフィアは一晩帰って来ない」
どうしても声が沈む。
「そうなの。よかった。殿下に会えたのね」
王宮に泊まると思っているようだ。普通、そう思うだろうな。だけど実際は、王宮ではなく地下牢だ。
嬉しそうに微笑むフィリアに俺は漸く告げることか出来た。
「………………違う。ソフィアは地下牢に一晩拘留されることになった」
途端に凍り付くフィリア。
「どういうことなの……? 私のソフィアが、地下牢に……い、いやーーーー!!!!」
フィリアの声に使用人が集まってくる。
座り込むフィリアを俺は抱き締めた。そして必死で言葉を噤む。
「落ち着け、フィリア。悪いのはソフィアじゃない。悪いのは全部、マリエールだ。マリエールがソフィアを嵌めたんだ」
そうだ。全てはマリエールのせいだ。マリエールが素直に戻って来れば、フィリアは悲しむこともなかった。ソフィアも王宮に忍び込むこともなかった。冷たい牢屋に拘留されることもなかったんだ。
マリエールさえ存在しなければ、俺はもっと早く、フィリアたちを屋敷に迎えることも出来たんだ。
全て、そう全て、マリエールが悪い。あの子が不幸の元凶なんだ。
「私が恨まれるのは構わないわ。だって、ずっとマリア様を苦しめてきたんだもの。だけど、ソフィアは関係ないじゃない。なのに、いつもソフィアはは……可哀想なソフィア。貴女を守れない愚かな母を許して」
泣き崩れるフィリア。
使用人たちがつられるように涙ぐむ。
俺はフィリアの体を強く強く抱き締めた。感情が高ぶり過ぎたのだろう、気分を悪くしたフィリアを、俺は寝室に運ぶ。
真っ青な顔色で眠るフィリアに寄り添いながら、俺は心の中でフィリアに謝り続ける。
長い間、本当に長い間、フィリアには苦労を掛けた。あんな頭でっかちの見栄張りの女のために、八年もの間日陰の身に置かせてしまったのだからな。ソフィアにも辛い目を合わせてしまった。だから、ソフィアを贔屓にして何が悪い。なのにあいつは、
『貴方に育てられた覚えはありませんわ』
真っ直ぐ俺を見詰め、そう言い放った。
本当に忌々しい。本当に憎たらしい娘だ。今まで誰のお金で生活出来てるって思ってるんだ。それを棚に上げて、何をぬかしていやがる。まだ、ソフィアのために働くんなら、可愛げがあるものを。
上手いこと王家に取り入るところなんか、あの女にそっくりじゃないか。殿下の婚約者じゃなければ、とっくに追い出してやったものを。でもそれももう終わる。
二週間後に、殿下はソフィアを選ぶ。ドレスを贈る程の仲だ。何度も仲睦まじい所も見ている。
当然、マリエールは婚約破棄されるだろう。そうなったら、あの変態伯爵に高値で売付けてやろう。あぁ、高値にはならないか。あんな平凡な容姿じゃな。まぁでも、ソフィアの嫁入りの費用の足しにでもなればいいな。
俺は知らなかった。
他の貴族たちに、自分たちがどのように見られているのかを。
完璧だと思っていた作戦が、尽く王妃と殿下の手によって覆されていた事にーー。
そして、マリエールが自分たちのことを、心底殺したいほど憎んでいたことも、俺は知らなかった。
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