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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

断罪の始まり

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 騎士が接見の間の扉を開けた。

 散々待たされて苛ついた屑が、怒りで険しい表情をしたまま入室する。挨拶もなしに。  

 礼儀もない無礼な態度に、騎士の目が一瞬険しくなった。屑は気付いていない。

 王妃様の隣にいる私を見た途端、屑は忌々しそうに私を睨み付けた。明らかにその目には殺気があった。

 少なくとも、子供を見る目ではないわね。たぶん、この場にいる全員そう思ったんじゃない。取り敢えず、隣にいる宰相様は不愉快そうに眉間に皺を寄せているから、出だしは上々ね。

「公爵。私に何の用です? 時間がないので手短に」

 剣呑な空気の中、口を開いたのは王妃様だった。

「我が娘が、地下牢にいると聞いたのですが、何かの間違いでは?」

 怒りを何とか抑え込みながら告げる。まぁ、これでも一応は公爵たからね。感情のコントロールは出来るみたいね。でも、礼節は落第点だけどね。

 当事者として、この場に同席はしているけど、王妃様や宰相様がいるおかげで一歩引いて見ることが出来た。

「間違い? 何が間違いなのです。まだ子供だから、これで許されてるのですよ」

 王妃様の仰る通りですわ。

 大人ならば、あの場で斬り殺されていても文句はいえない。

 侵入しただけでそれだよ。ソフィアはそれプラス、色々かましてくれた。一晩、地下牢に入れられるだけですむなんて、とても生温い処罰だよ。感謝こそすれ、文句を言うのは筋違いもいいところ。

 まず、文句を言う前に、謝罪と感謝の言葉でしょうが。

「ソフィアは優しい子です。母親のために何かせずにいられなかったのでしょう。そんな優しい子供を地下牢になど、慈悲深い王妃様がすることではないと思いますが」

 王妃様の優しさを無視して、反対に詰ってきたよ。

「せっかく温情を掛けてあげたのに、私を詰りますか」

 その声には、嘲りと侮蔑がありありと含まれていた。さすがの屑も顔色を変えたわ。

「いえ、詰ったわけではありません。マリエール、お前からも何か言ったらどうだ。そもそもお前のせいでこうなっているんだぞ!!」

 完全に矛先がこっちに向いたわね。

「私が何をしたというのでしょう?」

 私の台詞に激昂した屑は私に近寄ろうとしたが、控えていた騎士が立ちはだかる。

「何をしたかだと!! お前の身勝手な行動のせいでこうなったんだろうが!! 母親が病気だというのに帰って来ない。挙げ句に、母親のためにお前を迎えに行ったソフィアが捕まるなんて、理不尽もいいところだろうが!! 今すぐ、手を付いて謝れ!!!!」

 分かってはいたけど、この人の中に私に対する愛情なんてこれっぽっちも、欠片さえもないのね。

「酷いな……」

 隣から宰相様の呟く声が聞こえる。私もそう思うわ。だからここは、

「お断りしますわ」

 きっぱりと私は言い切った。

「断るだと。お前は妹が可愛くないのか!!!!」

 また、屑の口からお決まりの台詞が飛び出した。

 冷めた気持ちで、私は王妃様を伺う。王妃様は軽く頷いた。

 さぁ、ここから始まるわよ。覚悟はいい。でもこれはあくまで手始めだけどね。それじゃあ行きますか。

 私は改めて屑に視線を向けると告げた。

「ソフィアが可愛いなど、一度も思ったことはありませんわ」と。

「なっ!?」

 真正面から否定されて、屑の顔は更に歪む。もはやそこには、公爵としての貴族の姿はなかった。只の屑がいるだけだ。

「……私の持っているものを全て欲しがり、何もしていないのに虐めたと周りに風潮し唆し、聞くに堪えない言葉を発し、暴力を振るう人間を可愛いと思えるのでしょうか?」

 私がそこまで暴露するとは思っていなかったのか。それとも、そんなことをソフィアはしていないと信じているのか。内心では、後者だと思うけどね。あの子、外面だけはいいからさ。

 公爵は体を震わせている。

「…………どこまでも、性根の腐った奴め。育て方を間違ったようだな」

 やっぱり想像通り後者だったわ。

「育てられた覚えはありませんが」

 これまたきっぱりと宣言する。

「親に向かって何という口の聞き方だ!!!!」

 その時だ。

 激昂する屑に向かって、王妃様が恐ろしい程に冷え切った声で言い放った。

「それが、親が血を分けた子供に対する言葉か」と。一旦区切り更に続ける。

「公爵よ。貴方は勘違いしているようね。マリエールが我儘で王宮にいると思っているようだけど、それは大きな間違いよ。マリエールが王宮にいるのは、陛下と私が必要だと考えたから。だってそうでしょう、公爵。……大事な息子の婚約者の命が危険に晒されているんですもの、保護するに決まっているでしょ。宰相もそう思うわよね」

 言葉が見付からずパクパクと、魚が餌を貰うように口を動かしている屑に、王妃様は更に追い打ちを掛ける。そのために宰相様を同席させたんだ。

 さすが王妃様だわ。

「そうですね。数々の証拠から、マリエール嬢を虐待していたのは明らかのようですね。少なくとも、親の態度ではない」

 この台詞を言わすためね。この国の権力者二人からの駄目だし。公爵しか取り柄がない屑に反論なんて、始めから無理よね。心の中でニヤリと嗤う。勿論、顔に出すようなヘマはしないわよ。

「それで、公爵。今、マリエールの母親が病気と言っていたが、それってあの女のことかしら。だったらおかしいわね。彼女、昨日、貴方の娘と買い物をしているのを、この騎士が見ているのだけど、見間違いなのかしら」

 扇で笑みを隠しているが、その目は全く笑ってはいなかった。

 完全に屑の完敗だった。

 禄な反論も出来ずに、無様な姿で出て行ったよ。ほんと、胸がすく思いってこういう思いなのね。

 でもね……屑。

 勘違いしないで。

 これは始まりよ。今回のも、私の蒔いた種の栄養でしかないんだから。

 メインは二週間後の新年のパーティーなんだからね。楽しみにしててね、屑一家。



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