今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

周りの視線が痛いです

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 ソフィアが投獄されて程なく、屑が王妃様に接見を願い出た。

 王妃様は仕事中だということで待たせている。まぁ当然だよね。いきなり来て、接見出来ると考えてる方がおかしいよ。屑の何十倍も仕事してるんだから。

 なのに、文句言う言う。控室で怒鳴り散らしているのが、廊下まで丸聞こえだったわ。外に漏れるかもしれないって、考えもしないのね。ほんと、馬鹿だわ。

 確かに種を蒔いたのは私だけど、成長を促したのは、間違いなくあんたたち屑と糞女、そしてソフィアよ。自業自得。身から出た錆。

 今も、自分の手で更に栄養を与えてるんだから。

 それにしても……屑が王妃様に接見を申し出た早さに驚いたよ。

 もし私が投獄されたなら、屑は抗議もせずにそのまま屋敷に戻ったよね。そして次の日、馬車も用意されずに歩いて帰る羽目になったと思うわ。それから、埃まみれの私を見て、屑たちは嘲笑う。使用人たちも一緒に。

 その光景、簡単に目に浮かぶわ。

 王妃様は私にも同席するように告げた。私は頷く。だけどその目は、心配そうに揺れていたけど。

 ソフィアの前でランス殿下に扮していた殿下は、体調を崩したという理由で部屋に戻った。同席したいと散々ごねたけどね。だけど戻る前に、私にイヤリングを手渡す。

 何これ? ……なっ、これって!? 魔法具!? それも、

「これ着けろってことですか? 殿下」

 口元が引くつくわ。当然、体も引いてる。

「ああ。似合うと思うぞ」

 満面な笑顔で、なんちゅうもん勧めてくるのよ。私が絶対気付くって分かってて手渡したでしょ。盗聴、盗撮絶対ダメです。

「いや、いいです。似合わないので、丁重にお断りします」

 そう告げた途端、殿下は明らかにシュンとした様子で項垂れる。

 いやいやなんで、殿下がショックを受けてるのよ。

「駄目なのか……」

「いやそもそも、それ、普通のイヤリングではありませんよね」

「マリエールのことが心配で……」

 その言葉で許されると思ってるのか、おい。

「心配だからといって、盗撮、盗聴は犯罪だと思いますわ」

「だったら、普通のイヤリングは受け取って貰えるのか?」

 否定はしないんですね。

「いえ、結構です」

 間髪入れずに答えた私に、殿下は捨てられた子犬のようにシュン度を増した。

「駄目か……そうか…………まだ怒っているんだな。それとも信じてもらえないのか。どちらにせよ、仕方ないな。俺はマリエールをずっと傷付けてきたのだから」

 この手できたか……

 殿下が落ち込む度に、周りの視線が痛い程突き刺さる。私に対して批判するものじゃなくて、反対に生温かいもので、却ってそれが攻撃度を増した。

 この空気どうにかしてよ!! わざとだよね。わざとこの雰囲気に持っていったよね、殿下。

 周りに人がいなかったら、間違いなく舌打ちしてたよ。

 殿下が去らない限りこの茶番は終わらない。ううん。もう一つ終わらせる方法はある。

 あるけど……その選択は、私の負けるってことなんだよね。素直に負けを認めるなんて、絶対嫌だ。嫌だけど……この視線に晒され続けるのは、もっと嫌だ。精神がゴリゴリと削られる。この後屑と会うのに。

「…………分かりましたわ。受け取りますわ」

 屈辱だわ。私が、殿下に負けるなんて。精神をもっと鍛えないと。次はないわよ。

「ありがとう! マリエール。俺が着けてあげるね」

 満面な笑みを浮かべ、殿下が迫ってきた。そして、私の耳朶を十分に堪能した殿下は、素直に部屋に戻って行った。

 一部始終を見ていた王妃様が一言、「本当にごめんなさいね」と謝ってくれた。その気遣いが却って胸を抉る。



 絶対、屑たちの最後を見届けたら、出て行ってやる!!



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