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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
想像以上にやらかしてくれました
しおりを挟む王宮内なのに、ソフィアを抱き上げた屑が大声を発しながら突進してきた。廊下を歩く職員は思わず足を止め振り返り、道を譲る。そんな彼らを屑とソフィアは気にも止めない。
……ほんと馬鹿よね。
声を掛けるなら、こんな目立つ場所じゃなく、人気のない場所にすればいいのに。屑の目には彼らは映っていないかもしれないけど、この場にいる大半は貴族なんだよね。
つまり、彼らはいいスピーカーになる。それも色んな場所でね。部署とか家とか。ちょっとしたサロンでね。お茶会でも話題になるんじゃないかな。
その光景を思い浮かべて、内心、ニヤリと笑いながら私は足を止めた。
屑はソフィアをそっと下ろす。二人の異常さにアンナが私の前に立ち、護衛のジークが私とアンナを背に庇う。
普通の親子ならば絶対に見られない光景だわ。それだけで醜聞ものだって気付かない。だから、お花畑なんだよ。あんたたちは。
「そこをどけ!! 邪魔だ!!!!」
屑が顔を真っ赤にしてジークを怒鳴る。そしてソフィアは、私に向かって文句をたれた。
「お姉様ズルい!! 私の護衛を勝手に辞めさせたのに、お姉様にはこんな格好いい護衛をつけてるなんて、すっごくズルい!!!!」
二人ともギャーギャー煩い。
……カオスだわ。
そもそも、辞めさせたって……そんなこと、あるわけないじゃない。まだ殿下は、知っていながら、わざとそう口にしたけど、あんたたちは知らなくて口にしてるよね。
「そうだ!! 何故、お前に護衛がついてる。本来、護衛がつくべきはソフィアの方だ!!」
何言ってるのこの屑。自分が発言した台詞の意味を理解してる? こんな場所で王族批判って愚の骨頂ね。まぁ、らしいっていったららしいけど。
呆れながらも屑の台詞を否定する。
「何故、ソフィアに護衛が必要なのです?「何っ!!」
王太子殿下の婚約者でもないのに。
怒りで我を忘れたのか、今度は手を伸ばしてくる。それを振り払うジーク。
当然よね。ジークは私の護衛よ。指一本触れさすわけないわ。私もジークを止めないしね。ここまでされても気付かないの? ほんとにお目出度い頭をしてるわね。あんたたちは私たちの、いえ、未来の王太子妃である私の敵だと認定されたのよ。公衆の面前でね。
「……それに、一介の公爵家の娘が、王宮の騎士を辞めさせることなど出来るわけないでしょう。見に覚えのないことで責められても困りますわ」
思いっきり正論よね。観客の皆さんは、うんうんと頷いている。これはある噂の信憑性を自ずとあげた。
第四騎士団が解散され、騎士団長が更迭、ソフィアを護衛していた騎士が処罰された件に関してだ。
原因は表沙汰にはされていないが、公爵夫人が私の代わりに自分の娘を後釜につけようと、嘗ての友人である騎士団長に頼んだからだとーー。そこに男女の関係があったとか、なかったとか。
噂っていっても、ほぼ真実だけどね。現に、元騎士団長の奥さん、元騎士団長に離縁状叩きつけたんだって。私でも同じことをしたわ。
「身に覚えがないだと。白々しい。まぁそれはいい。今すぐ帰るぞ!!」
また性懲りもなく、私に手を伸ばしてくる。届かないけどね。
「ちょっと待って、お父様。私、カイン様にまだ会ってない。それに、新しい護衛も決まってないよ。お姉様、その護衛私に頂戴」
はい。アウト。
観客たちが眉を顰めている。当然ね。王太子殿下を婚約者の妹が勝手に名前呼び。婚約者である私がしてないのにね。ましてや、招待もされていないのに会おうとしている。伺いもたてずに。
その上、私の騎士を護衛に欲しいと告げた。
「マリエール。ソフィアがこう言ってるんだ。殿下に取り次ぎをしろ。そして、そこの護衛をよこせ」
こいつ何様だ。
益々、周囲の温度差がひらいていくよ。皆こころの中でこう思ってるんだろうな。
(これが公爵か……)
てね。私もそう心底思うよ。これと血が繋がってると思うとマジ嫌になる。でも、こればかりは仕方ないんだけど。
「どちらもお断りします」
すると、また屑は怒鳴り出した。今度はソフィアも一緒にだ。
「我儘もいい加減にしろ!! いいか、お前は私の言うことを聞けばいいんだ。それしか、出来ない、出来損ないなんだからな」
「そうよ。お姉様は何にも出来ないんだから、私を助けなきゃいけないのよ!! さっさと、カイン様に取り次ぎなさいよ!!」
この親にこの子あり。子供だからと許されるレベルを完全に超えている。
想像以上にやらかしてくれたわ。
「黙りなさい。ソフィア」
低い声で言い放つ。
すると、またしても出て来ました。屑が。
「お前は姉だろ。妹の幸せを何故邪魔する!!」
ちょっと言い回しが違うけど、いつもの台詞が出た。
「……何を勘違いしているのですか。私は王太子殿下の婚約者である前に、国王陛下の臣下です。王族を護るに決まっているでしょう」
思った以上の冷たい声が出た。
「父親に向かって何という言い草だ!!」
「ひっど~~い。家族を悪者にするなんて。お姉様の心は汚れてるわ」
汚れてるのは、お前たちの方だ。
「貴方たちは王族を軽んじているのですか? 何故、面会の申請を提出されないのですか? 公爵家だから無理が通ると考えておられるのですか? ならば、その考えは捨て去った方がいいと思います。それに護衛の件ですが、ジークは私の護衛です。諦めなさい。話はそれだけですか? ならば、もう話すことはありません。これで、失礼させてもらいます」
これ以上は時間の無駄。罠はあらゆる場所に仕掛け終えたからね。後は時間差で爆発していくだけだ。
踵を返し、図書室に向かおうとする私の腕を、屑は再度掴もうとする。当然、ジークに阻まれる。
「待て!! マリエール。お前は家に帰るんだ!!!! これ以上の身勝手は許さんぞ!!!!」
その台詞に私は立ち止まる。
「貴方は、国王陛下、王妃様のご好意を無にしろと仰るのですか」
そう言い捨てると、今度こそ、私は図書室に向かった。
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