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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
お花畑はどこまでいってもお花畑です
しおりを挟む王妃教育が終わり、いつもと同じように図書室に向かう途中だった。いつもは静かな回廊がこの日に限って騒がしかった。思わず足を止める程に。
新しく私の護衛についたジークが、ちょうど側を通った文官に何が起きてるか尋ねる。
「どこかの公爵令嬢が、王太子殿下に会いに行くから案内しろって騒いでるらしいですよ」
それを聞いて、思わず頭を抱えそうになったわ。そんなことを言い出す馬鹿は一人しかいない。踵を返してそのまま、部屋に戻りたくなったわ。許されるならそうしたわね。
「……ソフィア様でしょうか?」
「それ以外誰がいるの?」
質問に質問で返したわ。他にいるなら教えてよ。
「いませんね」
はっきり言うわね。そういうところ好きよ。
「そもそも、どうやって来たのかしら?」
「公爵様に付いて来たそうです。公爵様が仕事をしている間、王太子殿下のお相手をするように言ったそうですよ。でも、騎士はそれを拒否したそうで……」
拒否するわ。当たり前じゃない。それを聞いて、益々頭が痛くなったわ。殿下のお相手って。一応、今は謹慎中の筈よ。その殿下に会いに行けって、何考えてるの!? そもそも、お前のせいで殿下が謹慎する羽目になったんでしょうが。
「……行くしかないの? 出来れば、回れ右したいのだけど」
「そのお気持ちは、とても、とても理解出来ますが、行くしかないでしょう」
……そうよね。行くしかないんだよね。
扇ってこういう時、ほんと役に立つわ。大きな溜め息を吐いても咎められないんだから。
「何を騒いでいるのです?」
思った以上に低い声が出た。
「あっ、お姉様!! どうして家に帰って来ないんですか!? そこまでして、カイン様の気を引きたいんですか? 皆に迷惑掛けてるって思わないんですか? だから、カイン様に嫌われるんですよ」
私は騒いだ理由を訊いたのに、返って来たのは私の悪口だ。会話にすらならない。
「私は騒いだ理由を訊いただけですが……貴女に訊いた私が馬鹿でしたわね。貴方に聞きます。何故、騒いでいるのですか?」
前半はソフィアに。後半は困ってる騎士に訊ねた。
「王太子殿下に会わせろと。その一点張りで。断っても納得して頂けなくて困っております」
心底困り果ててるのが、十分に見て取れた。そうでしょうね。言葉が分からない子供の相手が一番疲れるわね、精神的に。それも、なまじ地位が高いのが厄介だし。
「納得しなくても構いませんわ。公爵様の仕事部屋に送り届けてきなさい。それでも騒ぐようでしたら、猿轡をしても構いませんわ」
「宜しいんですか?」
驚いた様子の騎士。
「構いませんよ。この愚妹のせいで仕事が出来ない方が問題ですわ。それに、許可も下りていないのに、王族の居住区に勝手に侵入しようとしたのです。子供だからと許されるものではありませんわ。最悪、不敬罪で処刑されても仕方ない案件ではなくて。そしてそれを促した者に、何の遠慮をしているのです。騎士の貴方が。違いまして」
反論があるならどうぞ。
「畏まり「酷いっ!! お姉様はそうやって、いつも私を虐めて。私はお姉様と仲良くしたいだけなのに」
騎士の言葉を遮り、ソフィアはそう叫ぶと声を上げて泣き出した。ほんとに会話が噛み合わないわ。まぁ、いつもの展開よね。でもここには、貴女に同情するような愚か者はいないわよ。周りをご覧なさいな。皆、冷めた目で貴女を見てるわよ。九歳児を見る目ではないわね。
「あいにくと、私は貴女と仲良くしようとは爪の先ほども思ってはいませんわ。これ以上、ここで駄々をこねるのなら、牢屋でどうぞ」
そう告げると、私はソフィアに背を向けた。背後で猿がキーキーと鳴いている。
後はほっといても大丈夫ね。騎士が無理矢理、屑の元に連れて行くでしょう。牢屋だったらおもしろいけどね。お花畑はどこまでいってもお花畑みたい。ここは公爵家じゃなくて王宮なのに。ほんと馬鹿よね。
でも、あのソフィアと屑がそう簡単に諦めるとは思えない。また何か仕掛けてくるわね。ほんと、これ以上関わりたくないわ。
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