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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
逃げられるの!?
しおりを挟む「…………亡くなった?」
一瞬、殿下が何を言ってるか分からなかった。言葉の意味は分かる。それだけ。頭に入ってこない。
だって、第二王子は体が弱いから部屋から出て来ないって……王妃様も二人って…………
「じゃあ、第二王子って……」
誰なの? まさか…………
「もう一人の俺。マリエールがアレクって呼んだ、俺のもう一つの人格がランスを名乗っている」
神妙な表情で答える殿下。情報がいっぱい過ぎて頭がパンクしそう。思わず、頭を抱えたわ。でも、殿下が嘘を吐いていないことだけは分かった。そもそも、こんな突拍子もない嘘を吐いて何の得もないよね。
「どうしてそんなことを?」
「俺がアレクの記憶を取り戻したのは、ランスが死ぬ少し前だったんだ」
私も記憶を取り戻したのは、お母様がなくなる直前だった。昔からそう。身近な大切な人がなくなる直前に思い出す。どうしてそうなのか、なんて私には分からない。分かる術もないしね。そうとしかいえない。
「ただ俺の場合は、マリエールとは少し違う。思い出した時から俺の側に、もう一人の俺がいたんだ」
「意味がよく分かんないだけど?」
「だろうな。俺自体もよく分かんねーから」
いきなり出てきたよ、アレク。嫌、違うね。ブラック殿下って言った方がいいのかな。それとも、ランスって呼んだ方がいいの? う~ん、やっぱりアレクかな。
私はアレクと距離をとる。そうしないと、体が震えて動けなくなりそうになる。
「ただ言えるのは、アレクの人格は野生的な俺と優男のこいつがいたってことだ」
野生的って、ものはいいようよね。散々過去世で私を殺したのはあんたよね。まぁ、それはひとまず横に置いといて。
「……つまり、アレク自身が二重人格だったってこと? そしてそのまま、生まれ変わっても二重人格だったってこと?」
「さすが、マリエールだな」
褒められても嬉しくないわ。
「いやいや、ちょっと待って。そんなことあり得るの?」
「俺たちがいるんだ。あり得るんじゃねーの」
本人がそう言ってるんだから、そうなんだろうけど……もやもやが残るわ。
「で、話に戻るけど、どうしてあんたが第二王子を名乗ってるわけ?」
「随分言葉使いが、あいつと違うな」
「散々、私を殺したのはあんたでしょうが」
そう言った途端、アレクの顔が歪む。
少しは罪悪感があるのか?
殺そうと思ったのは両方かもしれない。だけど、直接手を下したのはアレクだ。死ぬ直前に見た目は、そうそう忘れることなんて出来ない。どんなに鍛えても、気を抜くと震えそうになる。必死で震えそうになる手を握って堪えた。
そんな私を見てアレクは俯く。そして顔を上げるとアレクではなく、殿下に代わっていた。表情で分かる。
ほんの少しだけ体の力が抜けた。
「……そうしないと、俺たち二人ともが壊れる可能性があったからだ」
「壊れる……?」
それが、アレクが第二王子を名乗った理由なの……?
「俺ともう一人の俺はあまりにも違い過ぎた。マリエールも知っていると思うけど、俺には魔力がない。だけど、もう一人の俺は持っている。俺が静ならあいつは動。何もかもが違い過ぎるんだ。……だから、どちらかがどちらかの振りをするのは、かなりの苦痛だった。お互いに。そのまま続けると、確実に壊れたと思う」
たぶん、そうでしょうね。容易に想像出来る。
「……王家にはもう俺しか子がいない。ランスは死んだ。だから、俺を護るためにランスの死は伏せられ、あいつはランスとして生きることになったんだ。元々双子だし、ランスは体が弱くて殆ど部屋から出たことがない。あいつがランスになるのは簡単だったよ……」
自嘲気味に殿下は笑う。殿下なりに思うところがあるんだろう。
それが、アレクが第二王子を名乗ることになった理由か……私でも分かるよ、それが苦渋の決断だったってことぐらい。
「それを知ってるのは?」
「父上と母上。それと宰相しか知らない」
「……ちょっと、待って。それじゃあ「マリエールは国の秘密を知ったことになるな」
すっごく楽しそうに言うな!! マジか~~私逃げられるの!?
暫く立ち直れそうにないよ。確かに私から訊いたけどさ。思わず、ショックで両膝を付いてしまったよ。
そんな私を殿下とアレクが見ている。心の中で、
「「(逃がすわけないだろ)」」と呟きながら。
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