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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
二人の王子
しおりを挟む「アレク。殿下を出して」
私は同じ台詞をもう一度繰り返す。
賽はなげられたのに、まだ自信がない。
目の前で起きている状況に、今もまだ正直頭が付いていけない。それでも、必死で頭を動かす。命が掛かってるからね。
殿下とアレク。
あまりにも全く違う性格の二人に、もしかして……一つの体に魂が二つ存在するのかもしれない。一瞬、そんな考えが頭を過ぎった。昔に一度だけそんな稀有な人を見たことがあるから。思い出した自分を褒めたいわ。
でも、それだと、体の中に魂が二つなければならない。だけど……殿下の中には魂が一つしかなかった。魔法は無効化されて使えないけど、魔力を目に集めるぐらいは出来る。だから、見間違いじゃない。
つまり、殿下は今のアレクと同一人物。
だったら、私がここから出れる可能性はまだ残されてる。それは、乱暴的なアレクじゃなくて殿下の方が表に出てきたら……。だって、殿下ならまだ話が通じるから。それに、暴力的なものを嫌っている。
だから、私はアレクに言ったのよ。「殿下を出して」ってね。
私が殿下との会話を望むと、アレクの表情が見る見る変わった。
コロコロと変わる表情。
一つの肉体の中で二つの人格が戦っているーー。正直、ちょっと気持ち悪いわ。
あ~~まだ、戦っている…………
お~~い。いつまで続けてるの?
中々、決着がつかないようね。ということは、主要人格と別の人格との力関係は大差ないってことかな。あ~~お茶美味しい。専門家じゃないから断定出来ないけど、殿下が主要人格でアレクが別の人格のようだ。
今の内に隙だらけの殿下を殴って気絶させればいいと思ったでしょ。でも、それは悪手。まず間違いなくカウンターが返ってくる。まぁ実際に、やられた子もこの目で見てるからね。私もそれで、一回大きなミスをしたし。ちゃんと学習してるわよ。
一息ついてから、私は殿下とアレクに告げた。
「今、この国を出る気はないわよ」
さっき必死で逃げ掛けた人間が言う台詞じゃないけどね。でもその台詞で理解したようだ。
「やるつもりか?」
これはアレク。
私はニヤリと笑って答える。敢えて誰とは言わない。
「だったら、俺を利用すればいい。もう、手は打っているから」
これは、殿下の台詞。
手は打っている……?
殿下はアレクだ。ややこしいけど。間違いない。なら、殿下は私に惚れている。殺したい程にね。だったら、どうしてソフィアに手を出したの?
「……殿下。詳しく教えてくれない? どうして、ソフィアに手を出したの?」
「それは……」
殿下は言い淀む。
「それは?」
追求の手は緩めないわよ。いい機会だから、色々はっきりさせたい。だから、角度を変えて攻めることにした。
「それと、あの筆頭従者。裏切ってたことに気付いてたんでしょ。私が気付いたくらいだよ。勿論気付いてたよね」
これはあくまで推測。
王都を追放されるのに彼は笑っていた。それも、悪意がある笑いだった。あの笑みを見たら、殿下の地位を失墜させようとしていたって考えてもおかしくない。そう思わせる程、悪意が満ちた笑顔だった。
殿下は無言だ。それって、肯定だって気付いてる? ほんと、その黙り込む癖治ってないわね。
「だとしたら、あの筆頭従者にお金か何かを掴ませたのは、必然的に第二王子になるわね」
殿下の信用を失墜させて、一番得するのは第二王子だからね。
不敬だって分かってるけど、敢えて口に出した。
この国の国王は長子が継ぐことに決まってる。そしてこの国の長子はカイン殿下。そのカイン殿下の弟である第二王子とは双子。ならば、いくらでも都合の良いように言い換えれるよね。
本当は第一王子は弟の方だった。体が弱いから混乱を防ぐために敢えて逆に発表したとかさ……何とでも言えるでしょ。多少強引でも。まぁ、体が丈夫になってからじゃ無理だと思うけど。
ふと……思ったの。
もしかして、目の前にいる殿下はわざと廃嫡されようとしているのかもしれないってね。気のせいかもしれないけど。
「……あいつは、王位なんて興味はないよ。これっぽっちも」
返ってきた台詞はとても意外なものだった。
「興味がない? どうして、殿下がそう言い切れるの?」
まるで、第二王子の真意を知ってるかのような言い方だよね。
「言い切れる。だってあいつは、第二王子は、もう一人の俺だから」
えっ……どういう意味?
「第二王子は、マリエールが言うアレクだ。俺の本当の弟は五歳で亡くなったんだ」
告げられた真実に私は言葉を失った。
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