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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

妥当な処罰ですね

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「カイン。答えないのですか? 折角、マリエールが問うているのに」

 凛とした声が室内に響きます。

 今日のマナー教室は途中から参加する人が多いわね。今度は王妃様ですか……騒ぎを聞き付けて来たみたい。まぁ、あれだけ騒げばね。

 王妃様の入場に皆頭を下げます。下げていないのは殿下だけね。あの残念な筆頭従者も頭を下げてます。

「では、私がマリエールに代わり問いましょう。カイン。貴方の言は、いつから国王陛下より重くなったのでしょう」

 楽しそうに話しながら、確実に殿下を追い詰めてるわ。目、全然笑ってないじゃん。マジ、怖っ。

「どうしたのです。答えなさい」

「…………」

 答えられるわけないよね。さすがの馬鹿も、そこは分かってるみたいね。まぁ、分からない人はいないと思うけど。

「……カイン。貴方が勝手に配置換えした騎士は、今地下牢に投獄されています。いずれ、騎士を剥奪され王都を逐われるでしょう。言っておきますが、護衛の件を私に話したのも、投獄を命じたのもマリエールではありませんよ。……カイン。貴方の軽率な行動のせいで、第四騎士団は解体。騎士団長もその任を解かれました。……私が何も知らないとでも思ったのですか」

 護衛の投獄と騎士団長に何らかの処罰はあると思ってたけど、まさか、騎士団の解体までとは思いもしなかったよ。結構、思い切ったことをしたよね。でもまぁ、この件に私が無関係だって言ってくれたことは助かるわ。いらぬ恨みは買いたくないからね。

 ところで、殿下生きてます? あっ、完全に打ちのめされてるわ。辛うじて、筆頭従者は生きてるけど、不服そうな顔をしてるわね。ある意味、猛者だわ。呆れを通り越しちゃったわ。この状況の意味、本当に分かってるの。分かってないんだよね。そもそも、どうしてこんな視野の狭い人間が筆頭従者になったの? 完全な配置ミスだよね。

「不思議そうな表情をしているわね、マリエール。昔は聡明だったのよ。だから、付けたのに……濁っちゃって、困ったわね」

 主語は隠しているが、誰のことを指してるかすぐに分かったよ。完全に思ったこと読まれてる。ほんと怖い。さっきまでとは打って変わって、柔らかな雰囲気を纏ってるのが、却って怖いわ。どう答えろって言うのよ。曖昧に微笑むしかないじゃない。あ~~漸く自分のことだって気付いたようね。真っ赤な顔をして私を睨んでるわ。いやいや、何で私に矛先が向くのよ。

 そんなことを考えていると、騎士が四人入って来た。そして、殿下と筆頭従者を両側から挟む。

「カイン。一か月間の謹慎処分を言い渡します。反省しなさい。そして、勉強のやり直しを命じます。これが最終通達だということを肝に命じなさい。そして、筆頭従者の貴方には、その職を辞してもらいます。今すぐ王都から出て行きなさいな」

 まぁ妥当な処罰ですね。成人してないからね。勉強してマシになるか分かんないけど。頑張って下さいな。これで駄目だったら、完全に干されることを忘れずに。教えてあげないわよ。そんな義理ないでしょ。

 後、若干一人納得していない人がいますけど、本当に聡明だったんですか? 滅茶苦茶濁ってるじゃないですか?

「なっ!! どうしてですか!?」

 まだほざいています。

「だって、貴方、仕事放棄してるわよね。完全に。主であるカインを諌めることもせずに、反対に煽ることをしている。今この瞬間にも。それに、いつ私が、貴方に話す許可を与えましたか。そんな基礎的なことも忘れてしまった人間なんて、必要ありませんわ」

 その言葉を最後に、殿下と筆頭従者は引きずられるように出て行った。素直に。

 無理矢理立たされたその一瞬、筆頭従者の口元が弧を描いているように見えた。一瞬、見間違いだと思った。だけど、間違いない。あいつは笑ってた。今から追放されるのに、どういうことなの?

 本当に、筆頭従者は濁ったの……? ふと、湧き上がる漠然とした疑問。

 王妃様が言う濁った原因って、間違いなくソフィアのことだ。それは間違いない。

 あまりにも不自然な表情と言動の数々に、考えを巡らせていると、王妃様の呟き声が耳に届いた。

「ほんと、よく似た親子だわ」

 …………親子?

 それって、糞女とソフィアのこと? 

 それとも、国王陛下と殿下のこと?

 


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