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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
言い掛かりもいいところです
しおりを挟む今日のマナー教室は立食パーティーを想定したものね。当たりだわ。
パーティーの大半がそうだから、この勉強はとても大事なの。ただ立ってるだけじゃないわよ。話題も語学力も必要になるし、飲み食いの立ち居振る舞いによっては、国の品位が問われるからね。
本当なら、とても緊張する筈なんだけど、二度目の公爵令嬢だから特に問題ないしね。だったら、当然食べることに専念しなきゃ勿体ない。
色んなものを少しずつ食べることが出来るのは、すっごく嬉しいし助かる。足りない栄養を補うことが出来るからね。特に、肉とか、肉とか……後はデザートかな。でも今は肉。肉一番大事。淑女の仮面を被ったまま爆食いです。
あ~~美味しい。この一口ステーキ、とっても柔らかい!! シンプルに塩コショウの方がお肉の味がする。も~~最高!! 至福の幸せってこのことを言うのね。
次はデザートにしようかな。その前にサンドイッチで口の中整えようと、手を伸ばし掛けた時だった。
見たくない人物、ワースト5に入る人物がやって来た。扉を乱暴に開けてね。
一瞬固まっちゃったよ。すぐに解けたけど。
いやいや、今マナー教室の真っ最中でしょ。先生方に伺いもたてずに挨拶も侘びもなく入って来るのって、どうなの? それも結構な音をたててさ。最低限のマナーさえ無視して入って来るのって、王太子殿下以前にアウトでしょ。何習ってるの? マジで。
「マリエール!!!!」
ましてや、いきなり入って来るなり怒鳴り付けるってどうなの? 喧嘩売ってるの? だったら買うけど。ていうか、私の名前を知ってたんだ。そこの従者、何で止めないの!! 相変わらず駄目ね。殿下と一緒に私を睨み付けてるし。先生方がいるってことに気付いてないの?
「お久し振りです、殿下。私に用があるようですが、その前に先生方に何か言うことがあるでしょう」
呆れながらも、さり気なく教えてあげた。一応ね。
「そうやって、誤魔化そうとしても無駄だ!!」
あ~~駄目だわ、コイツら。先生方の冷たい視線に全く気付いていない。この視線に気付かない神経の太さに驚くわ。すっごく面倒くさいけど、ここは応じないといけないわね。収拾がつかないもの。
「はぁ~~何を怒ってらっしゃるのですか?」
淑女として駄目なのは分かってるけど、溜め息を吐いてしまったわ。それぐらい許して下さいね。
「この俺に溜め息など!」
「ご用件は?」
やや低い声で促す。早くデザートを食べたいの。さっさと言ってくれないかな。
「何故解雇した!?」
「解雇? 何の話です」
「俺がソフィアに付けた護衛だ。お前が解雇したんだろ!? どこまで、ソフィアを虐げたら気がすむんだ!? 可哀想に泣いていたぞ!! なのに、お前は平然と食事とはな、醜い奴め!!!!」
「ソフィア様は貴女の血をわけた妹ではありませんか。なのに、そこまで虐げるとは、姉として、いえ、人として恥ずかしくはないのですか?」
黙って聞いてれば、言いたい放題よね。この二人。勉強不足にも程がある。思わず、先生方に視線を送ってしまったわ。先生方は頭を抱えてますね。同情はしないわよ。
「困ったら、誰かに頼るのか!! 全くとことん醜い奴だ!!!!」
「情けない……」
殿下と筆頭従者が興奮する程、私の気持ちは反対に冷えてくる。目も声も、纏ってる空気も変わる。
「……私が、先生方を見たのは違う理由ですけどね。まぁ、そんなことはどうでもいいです。まず訂正しますが、私はソフィアを虐げたことはありません。もう一度言います。一度も虐げたことはありません」
咄嗟に口を挟もうとする殿下と筆頭従者を視線一つで黙らせる。
「次に、食事をとっている訳ではありません。今はマナー教室の真っ最中です。何度も言いましたよね、先生方に挨拶はないのかと」
ここにきて、殿下と従者は気付いたようです。見知った顔を見付けたのね。真っ青になってるわ。先生方も怒気を隠そうともしてないし。
「…………最後に護衛の件ですが。私が関与しているわけないでしょう。今知ったことですし。それに、そもそも殿下の婚約者とはいえ、臣下に属する者が、国王陛下直属の騎士を解雇出来るとお思いですか? 解雇出来るのは一人だけですわ」
そんなことも分からないですか? 本当に情けない。こんな根本的なことを。
「まぁ、いつかはこうなるとは思ってましたが」
「……どういう意味だ?」
その質問に、またしても溜め息を吐いてしまった。少しは自分で考えようとは思わないの、全く……。
「不敬を承知で申しますが、護衛の未来を潰したのは、私ではなく殿下、貴方です。殿下の無知が護衛の未来を潰したのです。……護衛が国王陛下に命じられた任は、未来の王太子妃の護衛。つまり、私の護衛ですわ。その任を放棄したのです。殿下に命じられて。処罰されるのは当然でしょう。主の命令を無視したのだから。おそらく、騎士団長も何らかの処罰があるでしょうね」
「な、何を言ってる……俺は……俺は悪くない。悪くない…………」
「殿下にそのような口を!!」
「私が不敬なら、貴方はどうなのです? さっきから、誰に対してものを申しているのです」
悔しそうに押し黙る筆頭従者に溜め息すら出ない。
ましてや、今だにブツブツと呟くだけの殿下にもね。
この期に及んで何を言ってるんだろ、この人は。それとも、自分がしでかした事が怖くなったの。どちらにせよ、殿下、貴方が彼らの未来を奪ったのは間違いないんですよ。
「殿下教えて下さいな。いつから、殿下は国王陛下より偉くなったのですか?」
馬鹿なのはもういいですから、せめて、現実から目を逸らさないで下さいね。後、食べ物の恨みは怖いですよ。
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