戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

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第六章 ようこそ、海賊船へ

第一話 優しい声

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 重盛の策略によって、黒翼船を覆っていた結界が解かれた。

 突風が甲板にいた私たちを容赦なく襲う。

 突風に吹き飛ばされバランスを失った私の体は、そのまま無情にも柵を越え落ちようとしていた。

(お願い!!!! 届いて!!!!)

 落ちたくなくて、死にたくなくて、必死に手を伸ばす。

 反対に栞は、柵に掴まり懸命に腕を私に向かって伸ばしている。しかし、伸ばした手は届かなかった。

 徐々にスピードを上げて落ちて行く私の体を、誰かがしっかりと掴まえてくれた。同時に、胸に強く抱き締められた。

(……苦しくて……息が出来ない)

 目の前が暗くなっていく…………。

 …………まだ、死にたくないよ。








(…………誰……?)

 誰かが……遠くで私の名前を呼んでる。

 優しい声だった。その声に導かれるように、私は閉じていた瞼を開ける。

 そこは森の中だった。

「森……?」

 適度に人の手が入っているのか、陽の光が等間隔に地面を照らしている。森の中なのに、暗さは一切感じなかった。どこか、神聖な感じがする。

(もしかして、私死んだの?)

「……そうだよね。あの高さから落ちて無事な筈ないもんね…………クスッ」

 不意に込み上げてきた笑い。

 やっと……やっと、自分の居場所を見付けたのにーー。その途端これって。

 発狂しそうになった。死んでるんだから、このまま狂ってもいいかもね。そんな思いが頭を過る。

 その時だった。

 また、名前を呼ばれた。同じ声だ。

 疑問に思うよりも先に、自然と声がする方に足が向く。どうしたのかな。さっきまで感じていた絶望感が嘘のように消えている。声を聞く度に、頭にもやが掛かったかのような感じが強くなる。まるで何者かに操られているかのようだった。

 誘われるまま暫く歩くと、いきなり目の前がひらけた。

 ひらけた先には、一軒の洋館が建っていた。

 声はこね洋館から聞こえてくる。正確には、裏庭の方から聞こえてきた。足は自然と裏庭の方へと進んだ。何も疑うことなく。まるで、それが正しいかのように。

 裏庭に回ると、白いワンピースを着た女性ひとがお茶の用意をしていた。合ったことがない女性だった。その女性ひとは私の気配に気付くと振り返る。その顔には満面な笑みが浮かんでいた。

『睦月ちゃん!!』

 その女性は弾かれたように私の名前を呼ぶと駆け寄って来る。そして勢いよく私の体に抱き付くと、ギュッと抱き締めた。

『やっと会えた!!』

 女性ひとは私の耳元で嬉しそうに、そう言った。

『…………あの?』

 いきなり抱き付かれて困惑する。乱暴に振りほどいてもいいんだけど、振りほどいていいのか悩む。だって、あまりにもその人が嬉しそうだから振りほどけないでいた。にしても、やっぱり知らない。この女性ひと一体誰なんだろう。

 私は知らないけど、この女性は私を知ってる。

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