戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
44 / 46
第五章 保護者二人、愛し子を取り返すために奔走する

第十話 親友

しおりを挟む

 あまり眠れなかったサスケは、伊織を起こさないように部屋を抜け出した。そのまま甲板に出ると、軽く伸びをしてから床に座り込んだ。

 空を航行しているからか、朝早いのに太陽がやけに近くに見える。しかし結界のおかげで、寒くもなく眩しくもなかった。時折、雲の仲間を通り過ぎ、鳥の群れを追い越して行く。そんな風景を見ていると思う。

(次は皆で見たいな……)

 睦月さんはとても喜ぶだろう。一人ではくすんで見えるな。そんなことを思い一人苦笑する。そんなサスケに近付く者がいた。

「……何の用だ?」

 勿論、サスケは気付いていた。

「昨日は醜態を見せてしまった。すまない」

 錦だった。彼もまた眠れなかったのだろう。

「いや、こっちも熱くなったから、お互い様だ」

 サスケはそう言うと、隣に座るように促した。錦は促されるまま、サスケの隣に腰を下ろす。

「前にも、こんな時があったな……」

 錦が空を見上げながら呟く。

 昔……百年以上も前になるが、錦とサスケ、先代の〈なんでも本屋〉の店主の三人で帆船の旅をしたことがあった。あの時も、よく錦とこんな風に過ごしていたな。

 この時、伊織はまだ常世に堕ちてはいなかった。

 サスケは今とそんなに風貌が変わってないが、錦は十歳程若く見えていた。

 三人で五聖獣様がいる都を巡る旅をしていた時、今のように、よく甲板で二人で話していたな。普段あまり話さない錦が、この時はよく話していたのをはっきりと覚えている。何気ないことをずっと話して笑っていた。

「ああ……よく覚えてる。ほんと、馬鹿話ばっかしてたな」

 昔を思い出して、自然とサスケの顔に笑みが浮かんだ。それを見て、錦の顔にも笑みが浮かんだ。

「若かったからな」

「今も十分若いだろ」

 全く風貌が変わらないサスケの台詞に、苦笑いする錦。思わず、錦は「それはお前だろ」と言い掛けたが呑み込む。

 見た目が多少変わっても、サスケにとっては錦は錦なのだ。

 昔も今も、それは変わらない。

 お互い背負うものが増えた。

 大切にするのも増えた。

 昔と立場が違う。

 先代が常世を去ってからは、別々の生活を送ってきた。だが、根本的なところは変わってないと、サスケは思っている。それは錦も同じだった。

「そう思ってるのは、サスケだけだがな……」

「錦?」

「……サスケ、礼を言う。皆、サスケの言葉に救われた」

 錦が頭を下げる。

 錦はこういう奴だ。その潔い姿に笑みを浮かべた。

「何か言ったか?」

 サスケの言葉に錦は苦笑する。

 昔から、サスケはこういうところがあった。とても懐が深い。完全にキレさせた奴に対してもこの態度だ。……今まで何度、この男に救われてきただろうか。年をとっても救われている。絶対勝てないな、と錦はつくづく思った。

「実は、少し白翼船を改造した。二週間も係らないだろう。もしかしたら、ギリギリ間に合うかもしれない」

 錦は軽く息を吐いてから告げる。

「本当か!!」

 サスケは身を乗り出して、錦に詰め寄った。

「ああ」

 錦は力強く答えた。そして、続けて言う。

「さぁ、行こうか。黒劉山へーー」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

処理中です...