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第五章 保護者二人、愛し子を取り返すために奔走する
第十話 親友
しおりを挟むあまり眠れなかったサスケは、伊織を起こさないように部屋を抜け出した。そのまま甲板に出ると、軽く伸びをしてから床に座り込んだ。
空を航行しているからか、朝早いのに太陽がやけに近くに見える。しかし結界のおかげで、寒くもなく眩しくもなかった。時折、雲の仲間を通り過ぎ、鳥の群れを追い越して行く。そんな風景を見ていると思う。
(次は皆で見たいな……)
睦月さんはとても喜ぶだろう。一人ではくすんで見えるな。そんなことを思い一人苦笑する。そんなサスケに近付く者がいた。
「……何の用だ?」
勿論、サスケは気付いていた。
「昨日は醜態を見せてしまった。すまない」
錦だった。彼もまた眠れなかったのだろう。
「いや、こっちも熱くなったから、お互い様だ」
サスケはそう言うと、隣に座るように促した。錦は促されるまま、サスケの隣に腰を下ろす。
「前にも、こんな時があったな……」
錦が空を見上げながら呟く。
昔……百年以上も前になるが、錦とサスケ、先代の〈なんでも本屋〉の店主の三人で帆船の旅をしたことがあった。あの時も、よく錦とこんな風に過ごしていたな。
この時、伊織はまだ常世に堕ちてはいなかった。
サスケは今とそんなに風貌が変わってないが、錦は十歳程若く見えていた。
三人で五聖獣様がいる都を巡る旅をしていた時、今のように、よく甲板で二人で話していたな。普段あまり話さない錦が、この時はよく話していたのをはっきりと覚えている。何気ないことをずっと話して笑っていた。
「ああ……よく覚えてる。ほんと、馬鹿話ばっかしてたな」
昔を思い出して、自然とサスケの顔に笑みが浮かんだ。それを見て、錦の顔にも笑みが浮かんだ。
「若かったからな」
「今も十分若いだろ」
全く風貌が変わらないサスケの台詞に、苦笑いする錦。思わず、錦は「それはお前だろ」と言い掛けたが呑み込む。
見た目が多少変わっても、サスケにとっては錦は錦なのだ。
昔も今も、それは変わらない。
お互い背負うものが増えた。
大切にするのも増えた。
昔と立場が違う。
先代が常世を去ってからは、別々の生活を送ってきた。だが、根本的なところは変わってないと、サスケは思っている。それは錦も同じだった。
「そう思ってるのは、サスケだけだがな……」
「錦?」
「……サスケ、礼を言う。皆、サスケの言葉に救われた」
錦が頭を下げる。
錦はこういう奴だ。その潔い姿に笑みを浮かべた。
「何か言ったか?」
サスケの言葉に錦は苦笑する。
昔から、サスケはこういうところがあった。とても懐が深い。完全にキレさせた奴に対してもこの態度だ。……今まで何度、この男に救われてきただろうか。年をとっても救われている。絶対勝てないな、と錦はつくづく思った。
「実は、少し白翼船を改造した。二週間も係らないだろう。もしかしたら、ギリギリ間に合うかもしれない」
錦は軽く息を吐いてから告げる。
「本当か!!」
サスケは身を乗り出して、錦に詰め寄った。
「ああ」
錦は力強く答えた。そして、続けて言う。
「さぁ、行こうか。黒劉山へーー」
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