戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

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第五章 保護者二人、愛し子を取り返すために奔走する

第二話 伊織とサスケ、神王都に降り立つ(2)

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 二日後の昼過ぎ。

 伊織とサスケは神王都に降り立った。

 聖獣麒麟様が治める神王都は、四大陸に囲まれるように存在し、別名中央都とも呼ばれている。別名通り、常世の中心的役割を果たしている王都だ。

 それは位置関係だけでなく、交易などの経済の面からも言えた。どの大陸に行くにしても、必ず神王都を経由しなければならないからだ。だからか、自然に色々な種族が都に集まり、また生活を営んでいた。

 五つある王都の中で、色んな意味で一番発展している王都と言えよう。

「……伊織。錦の居場所知ってるんだよな?」

 降り立ったはいいが、一向に歩き出さない伊織に一抹の不安を感じて、サスケは尋ねた。まさか、知らないってことはないよな。

「いや、知らない」

 至極平然と答える伊織。

「…………はぁ~~!?」

 サスケは伊織の台詞に呆れて絶句する。

(知らなかったら、そりゃあ歩けないよな!! って、おい!!)

 内心、突っ込んでしまった。

「だったら、何で降りたんだ!?」

 サスケは伊織に詰め寄る。

 当然だ。乗って来た帆船はもう出港している頃だ。慌てて戻っても間に合わない。民間の帆船なら、最短でも倍以上の時間が掛かる。

「少し落ち着け」

 伊織はそう言うと、懐から一枚の札を取り出した。

 それに軽く息を吹き掛けると、札を空中に放り投げる。すると、札が軽く光り一羽の黒いカラスに姿を変えた。

(天狗だから、カラスか。伊織は錦の気を覚えてたのか……。会ったのは四、五回ぐらいだったし、かなり前だが。さすが、伊織だな)

 そんなことを考えながら、サスケはカラスを見上げる。

 カラスは伊織とサスケの上空を二、三回旋回すると、西の方角に向かって飛び始めた。

「行こうか、サスケ。あのカラスが、錦の場所まで案内してくれますよ」

 伊織はそう告げると、西の方角に向かって歩き始めた。

「よく覚えてたな、錦の気を」

「あんな個性的な人を忘れることは出来ませんよ」

 伊織は苦笑する。

(個性的か……。確かに、伊織にとってはそうだったよな)

 会う度に伊織を幼児扱いしていた仲間の姿を思い出し、サスケも苦笑した。

 そんな会話をしながら十メートル程歩いた時だ。隣を歩いていた伊織の足が突然止まる。

「伊織。どうかしたのか?」

 サスケは尋ねる。

 足を止めた伊織は答えずに上空を見詰めていた。サスケもつられるように上空に視線を移す。

 上空を旋回しているカラスの側に、漆黒の翼を羽ばたかせている一人の天狗の姿が見えた。女性のようだ。

「どうやら、お迎えが来たようですよ」

 にっこりと微笑みながら、伊織はサスケに告げた。

 
                           
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