戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
30 / 46
第四章 銀色の少女

第九話 灰色の翼と動き出した影(1)

しおりを挟む

 栞と一緒にいる時間が増えてから、この世界のことについて色々なことを知ることが出来た。サス君も色々教えてくれるしね。

 どんな形でも、この世界に残るって決めたんだ。

 だから最低限、この世界のことを学ぶ必要がある。それが、私自身の身を護る最低限の鎧になるのだから。

 大陸を護るために守護結界が張り巡らされているなんて、この世界じゃ小さい子までが知ってる常識。そして、別の大陸に行く方法が空路しかないってことも常識だった。

 ほんと、何にも知らないって怖いよね。

 空路を航行する船は帆船が主流で、その中でも、特に空に特化した南の種族が持つ帆船が群を抜いていた。

 その中でも、風を自由に操ることが出来る天狗一族の帆船〈黒翼船〉は、常世一の速さと設備を備えていた。その帆船の名の由来は、帆船の帆の色がだからだ。

 それでも、玄武様が統治している北の大陸から朱雀様が統治している南の大陸までは、普通の帆船で三か月は有に掛かるんだって。結構の距離だよね。まぁ途中で、麒麟様が治める神王都を縦断するから、当然と言えば当然だよね。

 それで、黒翼船でも一か月は掛かるって聞いた。そうなると、当然。

(約束の日は完全に過ぎるよね……)

 甲板の柵に肘を付いて外を見ながら、そんなことを考えていた。

 サス君は私の足下で丸くなって昼寝している。うん。至って平和だ。

 何故、天狗たちが私を誘拐したのかは、今も分からないまま。

 栞にそれとなく訊いたが、「族長が決めたことだから」と言われ、それ以上のことは教えてくれなかった。それでも最後に栞は、「族長は睦月様を傷付けるつもりはないのです」と必死に訴えた。

 あまりにも必死で、怖いくらいに危機迫って訴えてきたから正直戸惑ったよ。何か裏があるんじゃないかって。

 どっちにせよ、栞の言葉を信じてもいいのかなって思う時があるよ。だけと同時に、信じ切れない気持ちもあるんだよね。

 だから、打開策としてサス君に訊いてみることにした。

 もしかしたら、天狗の族長のことを知ってるかもしれないでしょ。本体サスケの分身であるサス君は、記憶も一部共有してるからね。

 すると、サス君は首を横に振った。

 サス君が知ってるのは先代の族長で、今の族長は子供の頃に一、二度会っただけらしい。内気な子供で、灰色の翼だったってことぐらいしか覚えていなかった。残念。にしても、

の翼ね……)

 栞の翼は灰色より、白に近い銀色だよね。栞姉は漆黒だけど。

 まぁ結局のところ、族長に会わなければ何も分からないってことだよね。なら、慌てても仕方ないか。

 というわけで、取り合えず今は、出来るだけ常識を勉強することにした。時間は有意義に使わないとね。

 勿論、まったりとクルージングを楽しむことも忘れてないよ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)
恋愛
国を護るために尽力してきた少女。 国土全体が清浄化されたことを期に彼女の扱いに変化が……

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...