戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

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第四章 銀色の少女

第七話 黒髪の美女と空飛ぶ帆船(2)

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 さっきまでの興奮が嘘のようにスーと消えていく。それどころか、マイナスにまで低下していた。

「姉上!!」

 そんな私とは反対に、栞が嬉しそうに声を上げる。

「栞、睦月様の前ではしたない」

 黒髪の美女がはしゃぐ栞を軽くたしなめた。

 栞は「すみません」と小さく呟くと、子犬のようにシュンと肩を落とし反省している。そんな栞を、美女は優しげな表情で見ていた。

 平和な光景だった。

 そんな二人を、私は冷めた目で観察していた。

 黒髪の美女と栞の関係性。

 栞が黒髪の美女を姉上と呼んだってことは、この二人は姉妹ってことになる。

 確かにそう言われてみれば、顔形は良く似ていた。だけど、髪の色と翼の色が全く違う。栞姉は黒髪に漆黒の翼。栞は銀色の髪に白銀色の翼だった。

 髪の色と翼こそ違うが、二人共似通った顔をしている。でもよく見ないと、姉妹とは気付かないかな。それ程、栞姉と栞が纏っている空気が全く違っていた。あまりにも違い過ぎるから、顔が似ていても姉妹だと気付く人は少ないだろうね。小町さんと陣さんの真逆のような姉妹だった。

「睦月様、サスケ様。昨夜はよく眠れましたか?」

 栞姉が微笑みながら尋ねてきた。

(何で、笑いながら話し掛けれるの)

 嫌悪感が込み上げてくる。

 私の表情が変化していることに気付いてないのか、それとも敢えて気付かない振りをしているのか分からないけど、平然とそう訊いてくる無神経さに不愉快を通り越して呆れた。

 先にいうことがあるんじゃないの?

 思わず、そう言いそうになった。

「……睦月様」

 栞姉が言葉を発する度に、私の名前を呼ぶ度に、ムカムカが増して蓄積していく。心底、神経を逆撫でするのが上手いわ。

 挨拶だけだとしても、言葉を交わすなんてマジ嫌。同じ空気を吸うのも嫌。態度を改めるつもりも、とりつくろう気持ちも始めからない。

 尚も親しげに話し掛けてくる無神経な栞姉と、後ろに控えている男に、険しい顔をしながら睨み付ける。

 私を誘拐した男は腰に刀を携えていた。

 栞姉の後ろに控えている男が、私を誘拐した実行犯なのかどうかは分からない。顔を見れなかったからね。同時に、あの場に複数人いたのかも分からない。直ぐに気を失ったから。

 たが、その男と、族長の娘である栞姉が直接関わっているのは明らかだ。栞姉が指揮したかもしれない。だって、彼女は族長の娘なんだから。そう考えるのが自然だよね。

 自分が誘拐されたことよりも、彼らが桂と刀牙を傷付けた。そのことが、どうしても許せなかった。

 子供にも平気で暴力を振るう人たちに、話し掛ける言葉を私は持っていない。持ちたくもない。当然、聞く耳も持ち合わせていない。だったら、これからとる行動は一つしかないよね。

「サス君、行こう」

 自然と声が低くなる。栞姉と男の横を無言のまま通り過ぎ、サス君と共に甲板を後にした。

「睦月様!!」

 栞が慌てたように姉に頭を下げ、急いで追い掛けて来た。それを無視して廊下を進む。

「睦月さん。睦月さん」

 サス君が私の足下で何度も私の名前を呼ぶ。

 唐突に足を止めた。サス君が私の脹脛ふくらはぎにぶつかる。

「……睦月さん?」

 起き上がったサス君が、心配そうに私を見上げている。

「だって、許せないよ!! 私を誘拐するのに、桂と刀牙を傷付けたんだよ、私の目の前で!! 子供に平気で暴力を振るったんだよ。そんな人たちと一緒にいるなんて、耐えられるわけないじゃない!!」

 今でも、胸が締め付けられる。

 桂と刀牙が突風に吹き飛ばされてピクリとも動かない姿ーー。

 あの光景が、頭に焼き付いて離れない。

 一気に吐き出すと唇を強く噛み締めた。握り込んだ爪が掌にくい込んでいる。強く握り込んだ拳に、温かいものが、そっと触れた。

 栞だった。


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