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第三章 働き始めていきなりこれですか

第五話 老紳士と謎の言葉

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「私は、サスケ殿の気持ちは分かるがね」

 いきなり背後から掛けられた声に、心臓が口から飛び出し掛ける。大袈裟じゃなくて、それ程吃驚びっくりしたってこと。

 反射的に後ろを振り返ると同時に、派手な音をたてながら立ち上がる。

 桂たちは唖然としていた。たぶん、誰一人気配を一切感じ取れなかったからだ。だって、いきなり現れたんだよ。気付くわけないよ。だって、この人は……。

 私たちはその声の主を知っている。っていうか、ついさっきまで、その人物は『なんでも本屋』にいた。

 私たちの目の前には、さっき帰った筈の老紳士が笑みを浮かべ立っていたのだ。

 老紳士は一歩私たちに近付く。

 テーブルに邪魔されて下がれない私は、自然と老紳士との距離が狭まった。老紳士は桂たちを無視して、私の顔を見下ろす。

 かち合う視線。何故か老紳士から視線が外せない。

「…………なるほど。あいつらが騒ぐのも分かるな。君はとても強く引き継いでいるようだ」

 一人納得したように呟く老紳士。

(あやつら……? 引き継いでる?)

 老紳士が発した台詞の意味が全く理解出来なかった。そんな私に、

「いずれ分かる時が来る。そう遠くない未来に……」と。

 まるで、私の心を読んだかのように、老紳士は答える。予言じみた台詞に、私は一抹の不安を感じた。

 少なくともこの時、私の表情から僅かな恐怖と不安を読みとった筈だ。

 それが期待していた表情だったのか、老紳士は満足したように笑みを浮かべる。そしてゆっくりと一歩下がり、今度こそ掻き消すかのように姿を消した。

 静まる店内。

 あまりの出来事に全身の力が抜けた私は、その場に崩れるように座り込んでしまった。

 桂たちが心配し、必死で私の名前を呼ぶ。

 しかし霞が掛かったみたいで、その声をどこか遠くに感じていた。放心してたみたい、完全に。

 ただね……この時、消える間際に言い残した老紳士の言葉が、妙に頭に残ってたの。老紳士は私の耳元でこう囁いたんだよ。「シンラ……」って。

(シンラって何……?)

 初めて聞く言葉だ。私にとって重要な言葉の気がする。



【シンラ】という、謎の言葉を残して姿を消した老紳士。

 彼が忽然と姿を消した直後だった。

 待ってましたとばかりに、突然店のドアが乱暴に開き、突風が店内に吹き込んできた。

 この後、まさか自分があんな目に合うなんて思いもしなかった。

 私の運命の歯車が、静かに回り始めた瞬間だった。

 そのことに、この場にいる全員知るよしはなかった。


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